DI’s Works Vol.4
DIインド社長 江藤宗彦
「日本企業に近づく投資のラストチャンス。
インドで起きている100年に1度の変革」

21世紀最大のフロンティアであるインドにて、スタートアップ特化ファンドを組織・運営するDI。現地にて起業家の支援に従事する江藤宗彦氏に、インド市場の実情や日本企業が進出し成功するための秘訣などについてインタビューを行なった。

Profile
DIインド社長
江藤 宗彦

慶應義塾大学経済学部卒業。国際協力銀行、PwCアドバイザリー、ヘルスケアスタートアップ等を経て、2011年にDIに参加。戦略コンサルティングに従事後、2014年にインド事業の立ち上げを主導。先鋭的なスタートアップへの投資と並行し、現地のスタートアップと日本企業の橋渡しに注力。インド投資実績30社、内ユニコーン2社(PharmEasyとPurplle)。両者間の共同事業の創出、業務・資本提携などを行っている。
2016年からインドに拠点を移し、現在はバンガロールに在住。

今が好機。100年に1度の大転換がインドで起きている

――インドの市場は、現在どのような動向なのでしょうか。

まず前提をお話しすると、インドは14億人という世界最大規模の人口を持ち、しかも平均年齢は30歳以下と、とてつもない人口ボーナスを持つ国として、2000年代初頭より期待を持たれていました。
また、理系教育が重要視されており、その力を活かせるIT産業に1990年代から力を入れ、多くのIT技術者を育ててきました。今ではGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazonの4社の頭文字をとってつくられた造語)がインドのR&D拠点で、グローバルプロダクトを開発するまで人材の質が上がっています。

そういった中で、2014年にモディ政権が誕生し、社会全体の効率化を目指しデジタル化が推進され始めました。
その結果、電子決済の普及、安価で高性能なスマホの急速な普及(2016年3億人→2022年8億人超)、競争強化によるデータ通信料金の劇的低下(世界最安値まで低下)が進みました。
そして、それらの大きな市場環境・構造の変化を捉え、多くのスタートアップが新しいサービスやビジネスを提供し始めたんです。
それらにグローバルのVCが資金を投入するという大好循環が、ここ2、3年で一気に行われました。

――その結果、どのような変化があったのでしょうか。

ユニコーン(評価額が10億ドルを超える、設立10年以内の未上場のベンチャー企業)の数がここ数年で飛躍的に伸びました。
表面的にユニコーン企業の数だけを見ると、DIが投資開始した2016年には10社でしたが、今では100社超になっています。特に2020年から2021年の1年間では、44社も増えました。
もともと持っていた世界有数の潜在力が、モディ政権下で実施された経済政策をきっかけに大きく花開き、大転換を引き起こしたのです。
これは100年に1度の変化と言っても大げさではないと思います。

――日本企業にとっても、投資先としてインドの重要性は高まっていると感じていますか。

そう感じています。強固な基盤を持つ中国や東南アジアに加え、日本企業にとってインドという場所の重要性が高まってきていますね。
アジアの経済成長の主役は中国と言われた時代が長く続きましたが、中国は少子化でいわゆる人口ボーナスがなくなりました。一方インドは、人口ボーナスがまだあります。
また、最近の中国ではアリババの例に代表されるように民間企業が冷遇される傾向にあります。私がインドで一緒に投資しているグローバル投資家は、中国ではなくインドに資金を振り向けるようになってきていることを、最近特に感じますね。

インドにおける、日本企業進出の成功の要因

――インドにて、日本企業が成功するための要因を教えてください。文化も違いますがどのような点が肝になるのでしょうか。

インドは市場が大きく競争が激しいので、経営のインドへの不退転コミットメントを基に、いかにインド人を活用するかがポイントになります。つまり、日本企業がいかにグローバルな経営をするのか、ということに尽きると思います。
まず、長期的にコミットすることが何よりも重要です。時間やリソースをかけてブランドの認知度を高めると、確実に市場シェアがとれるようになります。反対に、1~2年で撤退する可能性があるなら参入しない方が無難ですし、トップの交代によって方針が変わりがちなタイプの企業にとっても厳しいと思います。
その上で、成功している方々は皆、現地で良いパートナーを見つけています。またインド人のマネジメント層を雇い、報酬体系を整えて長く働いてもらうなどの工夫をしています。
また、文化の違いはたくさんありますが、日本と一番異なるのは「とりあえずやってみよう」というカルチャーです。日本人はビジネスの場で何かをお願いするときに、相当構想を練って、可能性があれば提案をしますが、インド人は可能性をあまり意識せずダメ元で意見や要望を言う。インドのビジネスの世界だと、そちらが勝つ気がします。

――日本企業にとって、どのようなカテゴリーの参入が成功の可能性が高いと考えていますか。

産業によりますが、製造業は間違いなく日本企業の方が優れており、インド側は日本企業への根強い尊敬を持っていることから、許認可・土地収用・サプライチェーン未成熟・中韓企業の競争という課題の克服は必要ですが、引き続き有望な分野であると思います。
また、インド人は値ごろ感を大切にするので、価格を安くしなければいけないという課題があります。ですが、経済成長が続くとより高品質なプロダクトのニーズが増えてくるので、これからチャンスがくるはずです。例えば、消費者向けの商品やサービスやヘルスケア分野での参入チャンスが本格化すると見ています。その際に、足元ではインド経済社会のデジタル化が進展しており、例えば、各分野で成長著しいオンラインのプラットフォームとどう付き合うかが課題となるでしょう。
他方、テック系の日本企業に限るわけではありませんが、現地の会社を買収して自社のグローバルなサービスに組み入れていく、現地の人を雇う、もしくは買収して良い人材を育てるという形でインドを活用することはありだと思います。実際に、こういった観点で、弊社の投資先の日本企業による買収例も出てきております。
なお、インド企業を買収する場合、産業を問わず、買収後に経営陣が交代してしまう場合がありますが、そのときにいかにトランジション(いわゆるPMI)できるかも大切です。

スタートアップと組むことが、重要なテーマになりつつある

――インドにおいて、DIはどんな会社に投資をしているのでしょうか。

アーリーステージ中心に投資してきており、ヘルステックが10社、フィンテックが7社、コンシューマーテックが4社とセクター横断的に投資しています。
そのうち、ユニコーン企業が2社、スニコーン企業(近い将来ユニコーンの評価を達成することが期待される企業)が4社という結果を残せています。
投資先にヘルステックが多いのは、インドは医療のイノベーションを起こしやすい環境が整っていて面白いスタートアップが育っているからです。私自身がヘルスケア分野の経歴が長く目利きをしやすいというのも背景にあります。

――インドでのビジネスを考える企業に、どのような支援ができるのでしょうか。

DIとしては、ファンドを通じたスタートアップ投資に加え、日本企業向けにコンサルティングの提供も行っています。インドに新規参入を検討されている企業、参入済みだが更なる成長を目指している企業、新興国向けの新規サービスや製品を探している企業に対して、戦略立案から事業の実行伴走まで支援をさせていただいています。
デジタル化が進みつつある昨今のインドでは、旧来のように現地の財閥とだけでなく、スタートアップといかに組んでやっていくかが重要なテーマになりつつあります。私自身、インドに拠点を置き現地のネットワークを持っていますし、DIとしてスタートアップ投資を通じたネットワーク・知見・経験がありますので、戦略を考え、最適なパートナーを見つけ、交渉や事業化をお手伝いさせていただいています。

――最後に、インドでの事業を考えている方に向けてメッセージをお願いします。

インドでは、日本や日本企業への信頼や憧れがまだまだ残っています。
進出している日本企業の数は、過去20年間増え続けており(但し、2021年はコロナの影響で初めて微減)、2021年には1439社(参考:JETRO)になります。
以前は自動車系や化学等の製造業の会社が多かったのですが、最近は、消費財やテック企業が増えるなど進出分野が多様化し、日本企業の現地でのプレゼンスも上がってきています。
また、スタートアップという分野では、日本企業にとっては今がラストチャンスなのかもしれません。現在(2022年11月執筆時点)は、インドにおいてもスタートアップの資金調達環境は厳しくなっており、インド側は日本企業の提案には真摯に向き合う姿勢を持っています。しかし、あと5年、10年したら、「シリコンバレーや深圳で日本企業が相手にされない」といったような事態と似たことが、インドでも起きそうな気がしています。

冒頭でお話しした通り、インドは100年に1度の大転換を迎えています。市場環境が大きく変化するときは、新規参入や事業拡大の好機でもあります。
少しでも何か気になることがあれば、ぜひお声がけください。
DIとして何かご協力できることがあると思います。