時代は増幅<アンプリファイ>を求めている
ドリームインキュベータの「テクノロジー&アンプリファイ」とは

企業が新規事業を行う際、ゼロからの価値創造のために外部のコンサルティングファームに依頼することはしばしばある。しかし実行のフェーズにおいて、そのつくり上げた価値が果たして持続可能なのかを測るのは難しい。戦略コンサルティングファームであり、「ビジネスプロデューシングカンパニー」であるドリームインキュベータ(DI)は、その価値を「増幅」させるべく新たなプラクティス「テクノロジー&アンプリファイ」を立ち上げた。彼らの話から見えてきたのは、自由な発想で常識を打ち壊すコンサルタントたちの姿だった。

価値創造、価値実現、そして価値増幅へ

「戦略コンサルをしていても、実際、何も変わってないじゃないか、日本が元気になってないじゃないか、と感じていました」

こう語るのは戦略コンサルティングやベンチャー投資事業を軸に、企業の事業創造を支援するビジネスプロデュースを行うドリームインキュベータ(以下DI)の統括執行役員である島崎崇だ。

ここ数年、さまざまなビジネスの局面で「イノベーション」という言葉が飛び交った一方で、「これからはイノベーションに留まらず、インパクトを出していく必要がある」と島崎は感じていたという。

「昨今、戦略系コンサルティング会社はクライアントの戦略・構想をつくるのはもちろん、実行の局面にも踏み込むようになっています。しかし実行の際、現場に寄り添うところまではなかなか踏み込めていないのです」

さらにDX推進が叫ばれ、多くの企業はデジタル(システム)の導入を急いだ。島崎は「システム導入は単なる手段」だと言う。

「その会社にとっての価値が何か。それをどう高めていくのかを考えなくてはいけません。DIはベストなパートナーを組み合わせてクライアントが満足する価値をつくっていきたい。『こんな面白い人がいる』『こんな素敵な技術をもつ会社がある』という、企業や人をつなぎ合わせ、組み合わせたいのです」

そんなビジネスプロデューシングカンパニーであるDIが自身のDNAともいえるプロデュース型ワークを進化させ、新たに「テクノロジー&アンプリファイ」を立ち上げた。

従来のコンサルティングファームとは異なる立ち位置で、デジタルテクノロジーにかかわるサービスの価値創造から価値実現、そして価値を増幅<アンプリファイ>させるという。この新たな「テクノロジー&アンプリファイ」について探る。

ドリームインキュベータについてもっと知る

島崎 崇 | SHIMAZAKI TAKASHI

ドリームインキュベータ統括執行役員・第二本部長。電通国際情報サービスを経て、2006年にDIに参加。コンサルティングが元来提供してきた効率化・最適化による「ほころびを直す」価値よりも「新たな事業を創造する」価値が日本企業にとって重要と考え、DIに参加。事業創造およびビジネスプロデュースを主軸に担当する。愛知県豊田市のアドバイザーや文科省、経産省等における検討会・WG委員も歴任。『3000億円の事業を生み出す「ビジネスプロデュース」戦略 なぜ、御社の新規事業は大きくならないのか?』『3000億円の事業を生み出す「ビジネスプロデュース」成功への道』(PHP研究所)を執筆(共著)。

ビジネスとテクノロジーを融合させる

DIはいま変革期にある。創業20年目から経営体制が変わり、外部から優秀な人材が続々と参画している。そんな土壌で新たに立ち上がったプロジェクトが「テクノロジー&アンプリファイ」だ。島崎は「ビジネスとテクノロジーを融合させることがわれわれの使命」だと語る。

「戦略系コンサルとしてビジネスプランをつくり、使えそうな技術を引っ張ってくることもできる。そこまでできていても、インパクトを出すところまでは昇華できていない。できていないならチャレンジしようというのがテクノロジー&アンプリファイのスタートでした」

2022年9月には加藤節雄と梅津宏紀が参画した。加藤は30年、梅津は20年以上総合コンサルティングファームの第一線で活躍してきた優秀なコンサルタントだ。

しかし彼らがジョインした段階ではまだプロジェクトのかたちはなく、ミーティングを重ねていくなかで、「アンプリファイ」という言葉が生まれたのだという。加藤は次のように振り返る。

加藤 節雄 | KATO SETSUO

ドリームインキュベータ執行役員。総合コンサルティングファーム複数社等を経て、2022年9月DIに参加。大手流通・小売企業を経て、グローバルコンサルティングファームに入社。以来、ファームの代表、アドバイザリー日本エリア代表などを歴任。製造業、流通、小売業、自動車、ハイテク・通信業、メディアエンターテインメント業など、幅広い産業の大企業に対し、主に経営管理領域における、業務統合、業務変革、グローバルシステム導入(ERP)などのコンサルティング業務活動を行なう。また、デジタルテクノロジーによる変革を推進する大企業、スタートアップなどにおける新規企画を数多く担当。


「amplify(アンプリファイ)というワードから物理で習った”波”を思い浮かべました。さまざまな企業が経営課題や社会課題に向けてテクノロジ―を使って新しい取り組みや事業やサービスをつくるお手伝いをわたし自身も多く経験してきました。しかしそれがなかなか拡がっていかないのが日本の現状です。多くの企業が同じような取り組み”波”を起こしているのだけれど、一つひとつは小さな”波”で大きくならない。

なぜかと言うと、物理では位相同期という言葉を使いますが、例えば、ふたつの波長の波の山と山が同じタイミングで揃っていなくては、大きくならないですよね。波がピッタリ揃うことで大きくなる。だからこの言葉を聞いたとき、自分たちは波を集めてその波を大きな波に増幅させる仕事をするのだ、というイメージがわいてきました」

クライアントとの事業テーマは社会課題解決を起点に生まれるが、あらゆる社会課題は“偏在”から起きていると島崎は指摘する。

「クルマが空いているところと混んでいるところ、二酸化炭素があるところ、ないところ、年齢的な偏りなど、あらゆる問題は偏在から起きている。だから偏在を均すためにデータとテクノロジーを使います。社会課題解決の事業化における戦略と、それを推進するための政策も大事で、DIではこのふたつはすでにやってきました。最後のピースは技術で、何かをhappenさせたり、インパクトを生むためには、テクノロジーという武器が欠かせないのです」

梅津 宏紀 | UMETSU KOKI

ドリームインキュベータマネージングディレクター。総合コンサルティングファーム複数社を経て、2022年9月にDIに参加。約20年にわたりハイテク・製造、流通小売、保険、製薬など幅広い業界に対して、テクノロジーコンサルティングサービスを提供。戦略立案からデザイン、価値実現に至る一連をEnd to Endで支援することを得意とする。戦略局面においては、情報システムの変革のみならず、新規デジタル事業戦略策定など、 攻めと守りの両側面からクライアントを支援。また、戦略と整合したヒト・モノ・カネのあるべき姿(アーキテクチャ、組織/人材、投資マネジメント)のデザイン経験も豊富にもつ。

アンプリファイの4つのキーワード

いま、さまざまな企業でDX推進の必然性が叫ばれているが、実際に実行されているのは「いまある価値、仕組みの置き換えに過ぎない」と梅津は指摘する。テクノロジー&アンプリファイではいまある価値を置き換えるのではなく、新しい価値をつくり、増幅させる。

それでは実際、テクノロジー&アンプリファイでは何が行なわれるのか。次の4つのキーワードから紹介したい。

1 優れた価値のデザイン
2 価値実現に向けた推進
3 枠を超えた価値集め
4 価値増幅の仕掛けづくり

「価値をデザインする、というのは描いた戦略をリアルの世界に落とし込む、ということです。どんな戦術が必要か、クライアントにどのような体験を提供するか、そのために必要となる組織モデルは何かを考え、どのようなアーキテクチャで支えていくか、より詳細に踏み込んだデザインを、ゼロベースで行います。

さらに実現の局面においては、持続的な事業運営のための組織体や運営スキームの立ち上げや、優れたテクノロジーやケーパビリティをもつ企業やアカデミア、行政などの強い仲間を集めます。そして、さまざまな先端テクノロジーを連続して取り込み、活用の好循環を作り上げることで、更なる価値の増幅につなげていくのです」

と梅津は語る。さらに「やはり何よりも根底にあるのはテクノロジー。ビジネスとテクノロジーをいかに直結させ、その提供価値を増幅させていくかが重要だ」と言う。

島崎は「領域によって濃淡があり、例えば大規模なシステム開発導入のような場面でアウトソーシングするビジネスは、グローバルな大企業がレバレッジを効かせてやっていく世界。そこをわざわざわれわれが入ってやるメリットはない」と言う。

まずはDIが得意にしている新規事業開発、価値創造に軸足を置く。

「大手のコンサルティングファームと競合するのではなく、時には他ファームも含めて協調しながら全体をプロデュースするような立ち位置でサービスを提供していきたい」と梅津は語る。

戦略プロジェクトなど、フェーズ限定のコミットではない。特定サービス導入など、テーマを限定してコミットするのでもない。

テクノロジー&アンプリファイの立ち位置は産業・事業視点をもちながらテクノロジーの力で実現可能な絵を描き、クライアントと同じサイドの立ち位置で、戦略・企画のみならず効果の刈り取りまでコミットするのだ。

 

「業界」という枠は誰のもの?

加藤は「これまで経験してきた総合コンサルティングファームでは枠を感じることが多かった」と語る。

「グローバルの枠、組織の枠、セクターの枠、ソリューションの枠、クライアントの枠……とにかく30年間、きめられた枠の中で仕事をしてきました。当然コンサルティングにおいて枠で仕事するということ(フレームワークやチーム)は、実行局面においては、効果的かつ効率的に仕事をすすめるための強力なツールです。しかし新たな価値を創り出す局面においては足かせとなることもあります。

枠同士のコラボは個々の枠の中での価値の最大化を目指していくのだけれど、結局はそれらの集約としての価値でしかない。新たな価値を創り出すには、価値同士の有機的なつながりとか、融合などが必要だと思います。DIでは枠を超えて仕事ができる。というより、枠を超えないで仕事をすることは悪だという文化があります。ぼくはそこにいちばん惹かれたのです」

多くのコンサルティングファームが「枠」にはまりがちだ。この傾向について島崎は「クライアントの業界や組織を見て仕事しているから」だと推察する。そのクライアントも大手になればなるほど縦割り型組織になり、組織の担当の枠にとらわれてしまうことが少なくないという。

「“業界”という枠があるから、企業は『うちは○○業界だ』と定義し、コンサルティング会社はその業界ごとに組織をつくる。『業界って、誰のために決めているんだ?』と考える必要があります。株式市場、投資家との関係で、業界が分けられているけれど、それはその企業が生み出す価値とは一切関係ない。

特に、新規事業に取り組む際、既存事業/業界を知っていることは、共感力にはなるけれど、新しい価値創造にはつながりにくい。なぜなら、新規事業においては、課題は社内でなく社外(社会・市場/生活者・産業・政策など)にあるから。既存の枠を超えるような解決策・インサイトを提供することがDIの存在価値だと考えています」

 

手間がかかってもオーダーメイドで

さらにDIがビジネスとテクノロジーの融合を推進する背景には、現状の総合コンサルティングファームでの分業化・均一化されたサービスがある。

「コンサルティングファームは大規模化し、専門化、分業化が進んでいます。サービスはグローバルで均一化され、同じやり方、方法論で提供していくのが一般的な手法です。一方、DIはクライアントがもつ技術や、社会を変えるためにサービス事業を立ち上げたいという新しいチャレンジに対し、しっかり向き合いコンサルティングサービスをやるのが特徴です」

こう語る梅津は、20年以上テクノロジー領域のコンサルティングに従事し、総合コンサルティングファームからジョインした。梅津の言う均一化されないサービスを提供するためには、クライアントがもつ一つひとつの課題に向き合う必要がある。

「手間がかかりますが、われわれはクライアントがどういう価値をつくるべきか徹底的に議論をつくし、オーダーメイドで提供しています」

と、梅津は言うが、実際にオーダーメイドでコンサルティングサービスを提供するのは難しいはずだ。それを可能とするのはこれまでDIが培ってきたしっかりとした“土台”と、DIの自由度の高さが影響しているようだ。

「あまりに自由すぎてもクライアントが望むことに対して距離が出てしまう。一方、DIは確かな土台のうえに自由度がある。それにわたし自身の経験を掛け合わせることでよりインパクトのある提案ができるのです」

ではDIの土台とは何か。

島崎は自分たちのことを「クライアントにとって優れた助手席のナビゲーターであると同時に、できれば運転席にも座りたいと思っているコンサルタント」だと笑う。クライアントに寄り添う気持ちがある一方で、できれば実行の局面で自分で運転をして社会にインパクトを与えたい。実際にDIはこれまで長年にわたり多くのベンチャーに投資してインキュベートしたり、DI自身でベンチャーを経営してきた実績がある。

「コンサルタントとクライアントという関係でもやりたいですし、やれないなら一緒にジョイントベンチャーをつくってやりましょう、というのでもいい。そういう事例をたくさん生みたいのです。アクティブに、当事者意識をもって運転するくらいの気持ちでいるからこそクライアントはDIを選んでくれるのだと思います」

 

10年後に価値のある仕事を

DIは戦略コンサルティング会社ではあるが、自らのことを「ビジネスプロデューシングカンパニー」と標榜している。コンサルティングというよりもプロデューシングという考え方が根付いており、業界やクライアントの垣根を越えて価値を創造することに注力している。

「ぼくたちは総合コンサルティングファームの真似事をしたいわけではありません。DIが得意とするのはゼロから何かを構想して具現化すること。そこに加えてビジネスの価値を上げたり、そこからさらに仕事を拡げたり。そういう想いを込めて、『アンプリファイ』というキーワードを掲げています」

こう語る島崎を中心としてつくられたテクノロジー&アンプリファイは、新たな部署を立ち上げたのではなく、既存のビジネスプロデュースインストレーションプラクティスの中にあえて共存するかたちでつくられた。すでに戦略コンサルとして仕事をしている人も兼務することになる。

島崎はこのことについて「これはDIの社風だと思いますが、メンバーには面白そうだから両方やらせてくださいというニュートラルな人たちが多い」と語る。さらに兼務することの意義を次のように言う。

「テクノロジー&アンプリファイは戦略構想とテクノロジーを融合することです。どちらかしかできないという人は10年後には市場価値がなくなる。両方を理解している人が10年後に付加価値の高いことをやっているはずです」

 

多彩なメンバーで動物園のように

テクノロジー&アンプリファイという新たなプラクティスを掲げ、今後さらに事業を加速していくDI。「仲間が欲しい」と言う彼らだが、彼らのカルチャーはどのようなものだろう。島崎はDIの社風を次のように語る。

「DIはいい会社。能力も高く、性格もいい、“いい奴”が集まっている。仕事のアウトプットも普通のコンサルよりレベルの高いところをやっている歴史と自負がある。クライアントに合わせることはいいことだけど、同化するというよりは、「(我々が信じる)正しい」と思うことを率直に提言する会社です」

加藤は島崎の言葉を受けて次のように語る。

「DIのマインドセットは、全員プロデューサーであること。対外的な仕事するときはプロデューサーとしての役割をしっかり果たす、同時に社内で何かやるにもフラットでニュートラル。年齢も年次も役職も関係なく、個々人を互いに尊重しあってコミュニケーションできる人たちなので、新しく入社した方はすごく自然に、楽に自分の能力や経験を発揮できるのではないかと思います」

島崎は最近のコンサルタントの傾向とともに働きたい人物像を次のように分析する。

「コンサルティング志望の学生はこの10年くらいで変わりました。いわば大学で全部の授業を一番前で聞いて全部ノートをとるような成績優秀な方ばかりになってしまいました。でも、みんながいいというものに対して『それ、本当?意味あるの?』と疑問をもつタイプがいいと思います」

目指すのは「オール優」ではない。「まずは切る科目から考えましょう、と言えるのがコンサル」と島崎は言う。

さらに梅津は社内の多様性を拡げていきたいと言う。

「いろいろなタイプの人がいてほしい。何が得意でもいいし、やりたいことは何でもいい。何にでもチャレンジできる人と一緒に働きたいです。いろいろなタイプの人材が増えて、動物園のようになればいいですね。お互いに新しい情報をシェアしたり自然と人を育てたり。DIにはそういう感覚が当たり前にあることの良さが、多くの人に伝わるといいなと思います」

DIでは、フラットに、さまざまな話題が飛び交う。ちょっとした質問でもすぐにフィードバックがもらえるような環境だ。まさに変革期のDIは、これからさらに加速ギアを入れていく。大手の真似事はせず、自分たちで切り開いていく彼らに今後も注目したい。


WIRED.jpより転載(2023.03.03)