DI’s Works Vol.2
第二本部長 島崎 崇
「事業創造の伴走者として、顧客と成功体験を共有する」

「顧客」ドリブンを担う第二本部(実現推進)の長となった島崎氏。お客様に伴走して新たな文化や仕組みを創造し、「組織OS」へのインストレーションを目指している。コンサルティングファームの役割が「最適化・効率化からクリエイトへ」移行する中、島崎氏が見据える未来とは?

Profile
統括執行役員/第二本部長
島崎 崇

早稲田大学理工学部工業経営学科卒業、慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。株式会社電通国際情報サービスに入社し、システムエンジニアとして活躍。MBA取得後は経営企画・事業開発部門に携わる。その経験から「自社だけでなく、事業を本気でつくりたいと思っている様々な企業と仕事をしたい」という思いから2006年、ドリームインキュベータにジョイン。事業創造およびビジネスプロデュースを主軸に担当する他、愛知県豊田市のアドバイザー、大企業のアドバイザーに加え、文部科学省や経済産業省における検討会・WG委員を歴任。
2022年4月、「実行実現・デジタル化領域」を担う第二本部長に就任。
著書に『3000億円の事業を生み出す「ビジネスプロデュース」戦略』『3000億円の事業を生み出す「ビジネスプロデュース」成功への道』(三宅孝之氏との共著/PHP研究所)。

 

「イメージやコンセプトで終わらせない、形にする仕事を」

――第二本部ではどのような事業を行っているのでしょうか。

事業創造の支援、組織や仕組みを変えるための構築支援がおもな仕事です。
我々は組織をOSに例えて「組織OS」と呼んでいます。事業をアプリケーションと仮定して新しいアプリケーションを考えることはできますが、OSが古ければ動きません。事業創造においてOSがボトルネックになっているケースは多々あるので、仕組み、文化、人材といったところまで解決していきます。
弊社は大玉の事業創造やビジネスプロデュースが得意分野です。それらは抽象度が高く、具体性を帯びるまでにとても時間がかかります。DIの仲間たちは、一つのプロジェクトを始めるたびに「この仕事が世界で一番大事!」という思いで仕事をしますが、長く関わりたいと思っても、様々な事情でどうしても途中で手放さなければならないこともあります。事業でも会社でも組織でもプロダクトでもいいので、イメージやコンセプトで終わらせず、名前の付いた作品を残すまで携わる。そこを担うのがインストレーションを担当する私たちだと思っています。

―――事業を推進される中で気を付けている点はありますか?

単発的にお客様の会社において、大玉の事業創造でお祭り騒ぎが起きたとしても、次につながるものがなければならない。本質的には「日常的な業務として」新規事業を手掛け、常に何か仕込んでいないと、外部環境の変化に対応できなくなるのではないかという懸念があります。
事業の賞味期限が短くなっている昨今、日常的に新しいネタを仕込んでおかないと対応できないという危機感は、多くの経営者が抱いています。新規事業のテーマがその会社から再現性を持って立ち上がる、そういう自律的な仕組みをつくる必要があるという問題意識があります。ある種のOSのインストレーションですが、あくまでも目的は「新規事業の日常化」という点にあります。

――その事業を通じて、顧客にどのような価値を提供できるとお考えでしょうか。

僕たちはお客様にとっての非日常業務に日常業務として関わっているので、圧倒的な累積経験の差があります。そこは付加価値と言えますね。新しいものをつくっていく上での考え方、肝、パターン、落とし穴は、業種によらず変わらないところがあるので、応用が利きます。
新規事業に取り組む際、既存事業/業界を知っていることは、共感力にはなるけれど付加価値にはつながりにくい。本来、「業種」は投資家がカテゴライズしているだけで、ユーザーは商品やサービスが良質であれば気にしないはずです。
加えて、我々の価値は「そこまでやるの?」と言われるくらい推進すること。期待値を超えるのはもちろん、びっくりさせないと大きな結果にはつながらないと認識しています。元々ビジネスプロデューサー(コンサルタント)はどこまでいっても支援者なのですが、当社は創業来、投資先のインキュベーションを手掛けてきたこともあり、お客様に提案した事業であっても「自分事」で動きたい気持ちが強く、どんどん次のステップに(止めろと言われない限り)進めようとします。
一口に「実行支援」と言っても、計画策定して進捗管理・PDCAを回す、ということに留まらず、例えば提携/買収先を考える際、リストをつくるだけでなく各社と下交渉をやった上で、お客様と握手していただくところまでやります。人材が必要なら我々が採用の募集要項作成からヘッドハンターのリテインもしますし、場所が必要なら不動産会社と連携しますし、社名やロゴからつくりたいならデザインファームに依頼します。この辺は事業創造プロジェクトならではかなと思います。

――具体的な事例などあれば教えてください。

少々古い話になりますが、DIとしてエポックメイキングだったのは、トヨタ自動車様と手掛けた愛知県豊田市での大型の実証事業立ち上げです。市と更地の候補地を選定し、70軒ほどの分譲住宅を建て、そこにトヨタなど日本を代表する企業(30社超)の先端技術を導入すると共に被験者になっていただくという難しい住宅販売をしました。我々が国の事業にするところから始まり、豊田市役所にコールドコールをし、ゼロから企業を集め、ゼロから計画をつくりました。
この事例に関わった多くの人間がDIのシニアメンバーになっています。いい仕事は業績とインパクトをもたらすだけなく人をも育てるという好事例だと思います。

――今までのお仕事の中で、顧客に言われた印象的な言葉などあれば教えてください。

東日本大震災の被災地である釜石市で、オンデマンドバスの運行を始めたときですね。当時は福祉予算でバスを走らせていて事業規模がわからなかったため、始発から全ダイヤのバスに乗り、乗客をカウントすることから始めました。ここまでやるとお客様もびっくりされていました。
印象に残っている言葉は、仕事ぶりに対する「切れ味の良い刀のようだ」「自社でやったら3年かかっても上手くいくかわからなかった仕事を1年もかからず終えた」という評価です。しかし、僕はそれを誉め言葉とは受け取れませんでした。覚悟しないと使いこなせない会社という立ち位置は卒業して、日常業務に入り込みたいというのが正直なところですね。

「最適化と効率化だけではない、事業を創造することが大切」

――競合他社と比べ、上記のDIのサービスはどのような点で差別化できるとお考えでしょうか。

新規事業に取り組んでいる点です。他のコンサルティングファームからすると新規事業は難しいテーマだと思いますが、ずっとやっているという累積経験と、何より我々は好きでこの分野に取り組んでいるということは強みだと思います。
一般的なコンサルティングは、お客様の社内ないしは業界内の情報・データをかき集めて分析し、偏りや傾向を見つけて価値につなげます。一方、我々は社外の一次情報に重きを置いています。会社の外に出て大量の一次情報を集め、仲間をつくり、戦略やアクションプランにつなげている会社は多くない気がします。
現状、企業側もコンサルティング会社側も効率化・最適化につながる、ある種「答えのある」取り組みが多いように思いますが、「どんな事業をどうやって、なぜ手掛けるのか」といった抽象度が高く情報も不足するような課題に対しても正面から取り組む必要性は高まる一方なので、一日の長があるのではないかと思っています。

――担当本部のお仕事をしている中でのやりがいを教えてください。

お客様と一緒になって何かをつくる、その結果として喜んでいただく、会社に変化が起こる。その体験からもっと大きく大胆なことを手掛けていく。そこに尽きますね。
「社会課題解決」や「社会を変える 事業を創る。」は弊社のミッションですが、目の前の事業、それに携わっている様々な人々をハッピーにすること・できることは、そのミッションを謳う大前提になると考えています。

――他の2本部と連携をしていくイメージがあるのでしょうか。

今回、弊社は創業以来初の試みとして本部を三つに分けましたが、今のところ、コンセプトはあくまでコンセプトです。少し前までは全員が同じことをやっていて、僕自身はどちらかというとお客様の視点で取り組みをすることに関心があり、問題意識も高かったので当本部に配置されました。
今後は、第一本部が国内、第三本部が海外という分担で、さまざまな構想をつくり事業創造を進めていくはずです。そんな中、最後にそれらを自分事としてお客様にインストールしていくところは、我々が引き受ける仕事になります。そのためには、他の2本部との連携は欠かせないでしょうね。

「伴走者として、課題解決のプロセスをお客様と共有していきたい」

――今後、どのような分野・テーマに取り組んでいきたいなどあれば教えてください。

ありとあらゆる分野・テーマに対応していくつもりです。近年のトレンドとしては、ヘルスケア、SDGs、エネルギーといった大きな流れがありつつ、突発的にメタバースのような事案が発生します。
僕個人としては、サービス業に問題意識があります。日本経済が停滞している理由の一つはサービス業の生産性の低さなので、分散×労働集約から、集中×資本集約にいかに変えていくかがポイントになると考えています。資本集約型になればデジタルといったテクノロジーを活用できるようになります。このようなスケールで一緒に検討できる企業があればぜひご一緒したいです。

――担当本部は、顧客にとって今後どのような存在になるべきと考えていますか? 今後のビジョンを教えてください。

言葉にすると「エージェントから伴走者へ」です。お客様の新規事業に関わるとき、通常我々がプロジェクトで行うと数年かかることが数カ月で解決できますが、先方からするとスピードが速すぎてついてこられず、必ずしも満足度に繋がらないケースが見られました。お客様にとっては社を挙げて手掛ける事業創造は、成功させるだけでなく、自社のメンバーが遂行して経験が血肉となり自社のアセットになった、と感じられることも非常に重要であるのです。
元々我々はエージェントとして最速で推進させることが矜持だったので、これはとても驚きの発見でした。もちろん、最短距離での解決を期待されるケースもたくさんありますが、最近はプロセスを共有することにも価値を見出しています。例えば、DI側のメンバーを減らす代わりに、期間を長くしてお客様の組織から数名参加していただく形を増やしていくつもりです。
最終的には「新規事業パートナーと言えばDI」と言われたいですし、徐々にそうなってきているので、その認識と実績を広めていきたいです。

――個人として、本部での仕事を通して、DIとして、どのような想いでお仕事をされているかお聞かせください。

個人としては、組織OS、事業創造という営みを日常化するお手伝いをもっと増やしていきたいです。会社組織としては、DIにしろ当本部にしろ、前向きで能力が高く多様性に富むメンバーが揃っているので、それらを尊重していろいろな人が活躍できるプロジェクトやテーマを意識的につくりたいですね。プロフェッショナルファームとしての評価も盤石のものとしつつ、「戦略コンサルができるから何なの?」みたいなことを言う人も活躍できるような会社にしないと、組織に味わいが生まれないかな、と。
10年後、「まだ戦略つくってるんですか?」と言える会社になったら面白いと思いますね(笑)。

――最後に、読者へのメッセージをお願いします。

「日本の失われた30年」と言われますが、企業も個人も決して楽をしていたわけではなく、日々かなりの努力をしてきたと思います。ではなぜ日本経済が元気にならないのか。我々の仮説は、「創造」という「答えのない営み」が足りなかったからと考えています。
我々は、プロフェッショナルサービス企業の経営としては必ずしも「得ではない」かもしれないこの領域に、この問題意識と思いを胸に20年やってきました。ここ数年のDIに対する引き合いの増え方を見て、自信を深めています。
企業だけでなく、個人にとっても、(必ずしも自力でなくとも)他力を借りてでも創造をプロデュースできる人材は今後数十年最も必要とされるはずです。我々は一人でも多くこのような人材を擁して、企業と社会の役に立っていきます。少しでも関心を持っていただけたらお声掛けいただきたいと思います。一緒に何かをhappenさせていきましょう。