クルマ以外経験ないマツダ、新規事業挑戦の戦略。コンサルとの絆で保有技術の宝を発掘
自動車メーカーのマツダが新規事業開発に取り組んでいる。自動車専業でビジネスを展開してきた同社にとって、初の他領域への取り組みだ。狙いや現在までの手応えを関係者に聞いた。
最大の強みである「技術」を軸に、新規事業を検討
自動車業界は現在、100年に一度の大変革期を迎えています。その中で、マツダが新規事業開発に取り組む背景、狙いを教えてください。
マツダ 臼井:
マツダは業界でも数少ない自動車専業のメーカーであり、自動車開発の技術や人材、経験値に対する自負があります。一方で、自動車の市場は猛烈なスピードと振れ幅で変化し続けています。電動化やソフトウエア化の加速、脱炭素規制の強化、地政学リスクによるサプライチェーンの不安定化など、様々な要因で環境が変わる中、従来の延長線上の経営戦略では対応できない局面が増えました。そこで我々は、本業である自動車の周辺に閉じず、より広い視野を持って事業ポートフォリオを多角化することが不可欠だと考えるようになりました。

マツダ株式会社 新規事業開発室 主幹 臼井久和氏
新しいビジネスをつくる際、既存の技術や経験をどのように生かしていくのですか。
マツダ 臼井:
自動車開発の技術力は一朝一夕で獲得できるものではないため、マツダの競争力の源泉であり、最大の強みだと位置付けています。新規事業の開発でも、この技術を生かすことが重要です。私たち新規事業開発室には、エンジニアとして豊富な現場経験を持つ社員が多数在籍しています。これにより、既存の自動車開発技術を起点とした新事業の構想や仮説検証を自ら進められる体制を整えています。
マツダ 吉田(吉は土に口):
当社が持つ技術の価値を、どうすれば社会課題や市場ニーズと結びつけられるのか。そして、そこにどのような価値を生み出せるかを考えるのが基本姿勢です。今回の取り組みでは、年1回発行している「マツダ技報」を過去20年分さかのぼって読み込んで約660件の技術を抽出し、付加価値の独自性や既存技術との優位性、制約の有無などを確認したうえで可能性のある技術を30件まで絞り込みました。
この絞り込みの作業では、ある程度成熟した公開済みの技術であることを条件にしました。なぜなら、新規事業を育てていく過程では外部のパートナーと組む必要があるため、技術が未成熟だったり非公開だったりすると、その際のコミュニケーションが難しくなるからです。新規事業開発室のメンバーは皆異なる出自を持ったエンジニアで、技術に対する考え方も様々なので、どの技術にフォーカスするべきかの議論は一筋縄ではいきませんでした。ただ、全員が「マツダの新事業は自分たちにかかっている」という強い思いを持って臨んだことで、興味深い技術を選定できたと考えています。

マツダ 新規事業開発室事業開発チーム(塗膜耐食性評価サービス) シニア・スペシャリスト 吉田景太氏
組織の「癖」を取り組みのプロセスに織り込むことがカギ
今回はドリームインキュベータ(以下、DI)をパートナーとして取り組んでいます。DIを選んだ経緯などを教えてください。
マツダ 臼井:
「保有する技術を市場ニーズにどう結びつけるか」という点は、経験豊富なパートナーの力を借りる必要があると考え、複数の会社に相談しました。DIに決めた理由は、技術起点の事業開発実績が豊富で、頼れると感じたこと。また最初の提案段階から当社の技術を詳しく調べ、当社の状況や意志をくみ取った新規事業の草案を複数盛り込んでくれたことも大きかったですね。「ビジネスの新しい柱をつくる」という当社の大きな目標に対して、本気で向き合う覚悟が見えました。これなら同じ温度感で取り組むことができそうだと全会一致で感じたのです。
DI 板坂:
ありがとうございます。当社は、新規事業開発で重要なのはDIの支援が終了した後も顧客が自走できる「再現性」だと考えています。そのためには、マツダがこれまで技術をどのように磨いてきたのか、あるいは事業をどう運営してきたのかといった「癖」を深く理解する必要があります。そういった「癖」を把握して落とし込むというプロセスを顧客と共に行うことで、独自性があり、かつ再現性の高い新規事業開発が実現できます。そのために、画一的にならないクライアントごとの提案や進め方を心がけています。

ドリームインキュベータ 執行役員 板坂遼
進行中の新規事業開発プロジェクトの概要を教えてください。
マツダ 大上:
当社は、塗装製品の塗膜の防錆(ぼうせい)性能(サビさせにくさ)を短時間で評価する独自技術を開発し、2017年に実用化しています。この技術をベースとして、数分から数十分で防錆性能を定量的に評価できるサービスの開発を進めています。

マツダ 新規事業開発室事業開発チーム(塗膜耐食性評価サービス) 大上晃一氏
マツダ 吉田:
防錆性能の評価は、テストパーツを巨大な試験機に入れて、数カ月かけてさびを発生させ、目視で評価する方法が一般的でした。そのため、基準適合の確認に多くの時間が必要でしたが、このサービスを使えば数時間程度まで短縮できます。また、試験機がノートPC程度のサイズで、持ち運び可能なため、評価を行う場所の制約もなくなります。
2023年夏にDIとの取り組みをスタートし、約4カ月をかけてベースにする技術を選定しました。その後、サービスの企画構想と具体的な仕組みの構築を進めて、大枠を完成させたのが2023年11月。現在は「塗膜耐食性評価サービス」と名付けて、有償のトライアルサービスを提供し、事業性評価を行っています。
奇跡的ではなく、再現性があったからこその必然
プロジェクトがうまく進んだポイントはどこにあると思いますか。
DI 板坂:
技術起点で事業化を行う場合、注意しなければならないのがサプライヤーロジックに陥らないようにすることです。自分たちがいいと思うものに注目するあまり、「誰も欲しくない商品」をつくってしまっては意味がありません。
そこで、DIからは一貫して、「お客様が欲しいと思うサービスなのか」ということを問いかけ続けました。「このサービスのニーズはどこにあるのか」を突き詰め、事業化に当たって少しでも不安があるなら躊躇(ちゅうちょ)せず方針変更することは重要です。手持ちの中でベストを尽くすのではなく、本当にニーズがあるものを追い求める。そこまでやって初めて、価値のある製品・サービスをつくることができるのです。
マツダ 大上:
実際、ミーティングではDIからかなり厳しい指摘も受けました(笑)。しかし、当社の技術を深く理解し、親身になって考えてくれていることの証なので「いい勉強になった」というのが正直な感想です。私たちの考えだけで進めていたら、別の結果になっていたでしょうね。
DI 渡部:
ぼんやりと「ニーズはある」とうかがえたレベルのサービスでは、お金を払っていただけないと考えています。想定するお客様の業務課題を正確に捉えるために、コストや工数、投資のバジェットを定量的に把握することが重要です。こうした分析があってこそ、対象市場と提供価値がクリアになり、お客様に買っていただけるサービスを構築することができます。

ドリームインキュベータ 渡部純
両社のやり取りで印象に残っているエピソードはありますか。
マツダ 吉田:
事業化に着手する前、社内でプレゼンを行って承認を得る必要がありました。実はプレゼンの2週間前まで、全く別の技術を検討していました。しかし、推進メンバーの中核である私、大上、DI渡部さんの3人が全員、「これが本当に新たなビジネスの柱になるのか」という疑念をどこかで抱いており、100%の確信が持てていない状態だったのです。
そんな折、私と渡部さんが元のリストには含まれていなかった防錆性能評価技術を知り、その可能性について議論することになりました。それぞれ別のルートから偶然知った技術でしたが、深く知るほど付加価値の市場性や他社との差別性が大きく、「事業化するならこれだ」という手応えが3人の間に生まれました。そこから2週間、猛烈なスピードで事業化案をまとめ、プレゼンを行って見事承認されました。
奇跡的ですね。なぜ、そのような短期間でできたのでしょうか。
マツダ 大上:
新規事業開発の一連の流れを、DIと共に取り組む経験ができていたことが大きいと思います。「何を、どの順番でやるべきか」「それぞれのプロセスで何を重視すべきか」などをDIと一緒に徹底的に考え抜いてきたので、2週間でそのサイクルを再び高速に回すことができました。
DI 板坂:
その意味では、奇跡的なのではなく、再現性を獲得していたからこそ実現できた必然だったのだと私は思います。
DI 渡部:
その通りですね。また、その2週間は、オンライン会議ツールを1日中つなぎっ放しで、サービスの想定ターゲットとなる顧客へのヒアリングと3人での会議を繰り返しました。タフなプロセスでしたが、私だけではなく、マツダの皆さんにも100%以上の熱量でコミットいただきました。あの本気度も、今回の重要な成功要因になったと考えています。
マツダ 臼井:
極端な話、知識やノウハウは社内になくても持っている人を巻き込んだり、借りてきたりすることができます。しかし、マインドセットだけは借りることができません。それを当社にインストールしてもらえたことは、DIに非常に感謝しています。
有償トライアルに申し込みが殺到
塗膜耐食性評価サービスをどのように事業化、成長につなげていく予定ですか。
マツダ 吉田:
2025年秋に有償トライアルの募集を開始したところ、化学メーカー、塗料メーカー、塗装製品メーカー、製鋼メーカーなど数十社から申し込みをいただきました。想定をはるかに超える数だったため、少しお待ちいただく形になっていますが、順次提供を開始しています。
当社としては、多くのお客様に興味を持っていただいてようやくスタート地点に立てたと気を引き締めているところです。受託型サービスとして提供開始した後、将来的にはSaaS型サービスも提供したいと考えています。
DI 板坂:
今後このサービスが数十億、数百億円規模に成長し、第二の事業の柱になっていくことを期待しています。その過程では、事業構造や運営体制の見直しに加えて、M&Aを含めた新たな戦略が必要になります。我々はそれらのプロセスの支援も得意としているため、その際はまたご一緒できればうれしいですね。
マツダ 臼井:
こちらこそよろしくお願いします。日本の製造業には、自社がその価値に気付いていない素晴らしい技術がまだたくさん眠っていると思います。DIのようなパートナーと組むことで、それらの技術を社会や顧客の課題解決につなげることができると思いますし、当社はまさにそのような効果を実感しています。同様の効果を、より多くの製造業が実感できれば、ひいてはそれが日本経済全体を盛り上げることにつながっていくのではないでしょうか。
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制作:Nikkei BP
※日経クロステック 2026 年4 月23日広告掲載
※役職・肩書、インタビュー内容は、本インタビュー時点のものとなります。