集合知とアーキテクチャ思考によるビジネスデザイン

インターネットの登場で、パソコンをはじめとする数々の情報機器がつながり、世界を劇的に変えてきました。そして今や、スマートフォン(スマホ)・タブレットの普及により、ヒトが常時「つながる」時代が到来しています。「つながる」ことで、何が起きるのか。これからのビジネスデザインはどうあるべきか。これらの点について、「つながり」をチャンスとしてビジネスを生んだ成功事例をもとに考察したいと思います。

まず1つめの事例は『クックパッド』です。ご存知のように、掲載レシピは約150万品、のべ月間利用者は3,300万人と、クックパッドでは膨大なトランザクションが行われています。特筆すべきは、レシピの投稿や閲覧が無料であるという点です。例えば、食品メーカーは大きな開発費、人件費を負担して商品開発を行いますが、クックパッドでは普通の主婦がつながったことにより、メニュー開発も評価も無料で行われているのです。例えば、将来食品メーカーに対して「このようなメニューを開発しました、これだけの評価を得ています、開発しませんか」という提案がある可能性もあるのです。「つながり」によって無料で優良なコンテンツを集めることができるようになったことは、ビジネスモデルの大きな転換といえます。

「つながる」ことで何が起こるか①:『クックパッド』の躍進

しかし、これは新たに生じたトレンドではなく、これに先駆けた事例としてLINUXが挙げられます。かつて、大手ソフトウェアメーカーは各社で膨大な費用をかけ、システム開発にしのぎを削っていました。しかし、LINUXの登場は、それらを全て凌駕してしまいました。LINUXは、有志のプログラマーがボランティアで共同開発を行い、大手メーカーのシステムを超えるものを作り出したのです。システムに詳しいエンジニアがまずつながったLINUXこそ、集合知の走りと呼べるのではないでしょうか。

「つながる」ことで何が起こるか②:LINUX発展の歴史

更に、今やサービスだけでなく、人々が「つながる」ネットという仮想社会から才能あふれる「スター」が生まれつつあります。ネットに投稿した動画がきっかけで人気を集めたアーティストは既に複数存在しますが、それだけではなく、ネットはクリエーター発掘の場としても活用されているのです。例えば、YouTubeのユーザーを使ったスター誕生モデルであるMaker Studioもその例です。企業がネット上でCMの作成を依頼し、コンテストに出品された作品のうち、視聴回数の最も多い作品が正式採用されるというような事例も見られます。作品が選ばれた時点で、既に宣伝効果があるという点も、従来のマーケティングとは大きく異なる点です。

「つながる」ことで何が起こるか③:Maker Studio

これに近い例は、日本にも既に存在します。自作の小説(所謂ケータイ小説)の投稿サイト『魔法のiらんど』も「つながり」によるビジネス創出の事例です。同サイトは女子高生の間に口コミで広がるにつれて小説も良質化し、既に複数のベストセラーが誕生しています。現在同サイトを保有する株式会社KADOKAWAは、コンテンツの権利を保有し、ベストセラー作品の書籍化・映画化・ドラマ化と権利を幅広く展開することによって広告収入以外の収益をあげています。無数の読者・クリエーターがつながることで、素晴らしいクリエーターが発掘される新たな道を開くとともに、従来の音楽・映像とは全く異なったビジネスモデルを展開しています。

「つながる」ことで何が起こるか④『魔法のiらんど』の歩み:以上のように、「つながる」ことを活かした新しいビジネスモデルが多数生まれています。その結果、伝統的な企業のライバルが、死角ともいえる異業種からやってくる可能性が十分にあり得ることに留意が必要です。例えば、ネット検索サービス大手のGoogleは、広告業界でもが巨大企業に成長してきました。一方で、従来の業界の枠組みの中にいる同業に出し抜かれることは、現在ではほとんどありません。

敵は死角からやってくる
これらの事例からも、今後は、次の「つながり」を見据えた事業展開を考えることが重要といえます。再び情報産業を例に挙げると、ハード機器はソフトにより、ソフトはクラウドによりつながり、更にはスマホ・タブレットの普及でヒトまでもがつながりました。かつて、ハードウェアメーカーはハードウェアメーカー同士、ソフトウェアメーカーはソフトウェアメーカー同士で同じ分野での戦いを行っていました。しかし、今は色々なものがつながった環境の中で、広い範囲を俯瞰して「ここでどう戦うか」を考えなくてはならなくなっています。

次の「つながり」を見据えた企業に覇権が推移

例えば、チップ業界を見てみましょう。インテルは主にPCやサーバにチップを提供することで、パソコン全体を見据え、ハード・ソフト・データの垣根を越えた戦い方をして成長してきました。しかし、インテルは残念ながらヒトまでがつながったところまでは見据えていませんでした。

一方、インテルの競合企業であるクアルコムの動きは、「つながる」ことで、業界の垣根がなくなりつつあることを如実に示しています。クアルコムはもともと携帯電話メーカーでしたが、今ではチップと特許に特化し、周到な知的財産権戦略をとる一方で、業界団体等と連携した技術の標準化による普及拡大の仕組みを構築するなど、インテルの一歩先を見据えた事業展開を行ってきました。その結果、今ではクアルコムのチップはPC・サーバだけでなく、スマホや更にスマホで「つながる」ことができる多くのハードに採用されています。更にクアルコムは、様々な製品に採用された自社のチップを通じて入手可能な「生活者データ(情報)」を収益化するビジネスモデルに着手するとともに、アプリサービスの展開も視野に入れています。クアルコムは「つながり」がもたらす社会を俯瞰し、自分はどこでどう戦うべきかを考えているのです。これらの取組みを受け、時価総額でも2012年11月にはとうとうクアルコムがインテルを上回りました。

同じチップ業界内でも「つながり」の先読みが勝負を大きく左右
クアルコムはさらに視野を拡げ、生活者データ取得にまで触手

「つながり」によって業界の垣根がなくなりつつある今、業界内の俯瞰だけでは意味がなくなりつつあります。全てのものがつながったことにより、従来業界間に存在した壁がなくなり、複数の業界を「切り取る」形で新しい市場が形成されるようになるのです。そのような市場形成の過程では、どの業界でも、もっと大きな俯瞰をしている異業種のプレーヤーに飲み込まれる可能性があり、その背後には、更に大きなプレーヤーが待ち構えていることもあり得ます。今後、この傾向は一層強まると予想されます。

業界内だけの俯瞰では、意味がなくなりつつある
全ての「モノ」がつながると

例えば、映像ストリーミングのNetflixも異業種の企業を飲み込みつつある企業の好例です。Netflixは当初、映像コンテンツの配信事業で業績を伸ばしましたが、配信する映像の調達コストの上昇を受けて自前のコンテンツの製作に着手し、大きな成功をおさめました。かつて映像コンテンツの制作はTV局・映画会社の言いなりだったのが、それとは異なるコンテンツ制作の流れが生まれ、映像ストリーミング会社がTV局の強力なライバルになったのです。

なぜNetflixにはこれができたのでしょうか。Netflixの強みは、TV局・映画会社に頼ることなく、視聴者に直接アクセスできること、そして、豊富な視聴者の視聴データを保有することです。Netflixは膨大な視聴データを分析し、視聴者の嗜好に合う監督・キャスティング・脚本を選択し、視聴者に受け入れられる可能性が高いコンテンツを自前で制作しました。その結果、Netflixが制作したHouse of Cardsは、2013年エミー賞をテレビ局以外で初めて受賞したのです。この成功により、制作者側が企画をNetflixに持ち込むという新たなコンテンツ制作の動きが出て、TV局、映画会社を脅かす存在になったのです。

いつの間にかTV局の巨大な敵となったNetflix
制作会社のコンテンツが自動で集まるプラットフォームに

もう一つ、興味深い事例としてグリーンマウンテンコーヒーを挙げたいと思います。同社は、当初コーヒー豆の卸売業者でしたが、自宅で淹れたてのコーヒーを楽しめるワンカップコーヒーの技術を開発し、特許を取得しました。その後、スターバックスと提携し、スターバックスブランドでワンカップコーヒーを販売することにより、スターバックスの成長に伴って自社も成長してきました。一方、スターバックスも店舗だけではなく家庭での消費を獲得するという果実を得ました。更にグリーンマウンテンコーヒーは、スープ等コーヒー以外の飲料も手掛け、新しい市場を創造しています。コーヒー業界のクアルコムとでもいうべき取組みです。

コーヒー分野のクアルコム?
スターバックスが業績を伸ばすことで自身も成長するモデルを確立

これらを踏まえ、「つながり」がもたらした現在のビジネス環境はどのようなものだといえるでしょうか?

事業サイクルの観点から、ビジネスを創業期、成長・成熟期、衰退期と捉えると、成長期には業界が「タコツボ化」しやすい傾向があります。この時期の「タコツボ化」自体は悪いことではなく、業界・企業が成長している時期にはむしろ「タコツボ」のほうが効率的でもあります。しかし、業界が成熟し衰退に向かう時期にあっては、業界の「タコツボ」から出て、もう一度広い視野で新たなビッグピクチャーを考える必要があります。特に、「つながり」により、従来は異なる業界であったところも自在に切り取ることができる現在では、なおさらその重要性が高まっています。

事業サイクル

そして、ビッグピクチャーを考える際には、どの範囲でビジネスとして全体設計をするのかを検討する必要があります。異なる業種を広くとらえることが必要な反面、広すぎても現実的ではなくなってしまいます。

また、そのビッグピクチャーに基づいて業界をまたいで「切り取る側」と「切り取られる側」が分かれてきています。もちろん「切り取る側」に立つべく、構想をしていきたいところです。「切り取られる」側では、自分からしかけることはできません。しかし、「切り取られる側」はまだましです。業界の「タコツボ」にもぐったままだと「無視される側」になって、環境変化に取り残されてします。

更に、「切り取る」ために、高い視座で業界をまたいだ仲間作りが欠かせなくなっています。検討しているビッグピクチャーを、色々な人を巻き込んで複数の視点で眺めてみることが重要です。ある方向から見ると石ころでも、別の方向から見ると宝の山であることも多々あります。既存業界の固定観念に捉われない視点を持ち込んでくれる人との仲間作りは、事業機会として想像もしなかった成果をもたらしてくれるのです。

まとめ

このような環境のもとで、今後企業には何が求められるのでしょうか?

まず、すべてのものが宝の山、という考え方で前向きな発想を持つ必要があります。「つながり」をチャンスととらえ、自らの持つものの新たな可能性を考えていくことが必要です。

また、アーキテクチャ的発想も求められます。ビッグピクチャーの構造に足りないものをつなげる、効果的につなげるための考え方が大きな意味を持ちます。

更に、複数の多様な視点でものごとを見ることが重要です。かつての業界タコツボから脱し、改めてフラットなものの見方をすることが必要です。そのためには、信頼できる外部のネットワークの構築がこれまで以上に意義を持ちます。

そして、これらを備えた上でのインサイトを生み出していくべきです。

こういった取組みを通じ、「つながり」が大きな意味を持つ時代の新たなビジネスデザインが創出されていくと考えています。

これから求められること

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