未来を創るスタートアップ 〜Disruptor 50とつながる世界〜

皆様は、Disruptという言葉を聞いたことがあるだろうか?

英和辞書によれば「混乱させる、分裂させる」
英英辞書によれば「Interrupt by causing a disturbance or problem」
何か安定している状態を変えていく、という意味の言葉である。

このDisruptだが、昨今、世界中で「イノベーション」という言葉と同時に使われることが多くなった。言葉の元来の意味に対し、非常に好意的に捉えられるようになってきたと言える。

例えば、最近耳にする機会も増えてきた以下の5社。

uber Uber airbnb Airbnb drop Dropbox
kick Kickstarter spotify Spotify

今、米国を中心に世界的な広がりを見せているスタートアップで、既存の業界を「Disrupt」し、新たな価値を提供する「Disruptor」と定義される代表的な企業である。

それぞれ創業数年の新興企業だが、世界的に有名であり、既に巨大である。
我々自身、出張時含めて、よく利用している。

端的に言えば、「使いやすいサービス」を提供しており、大人気なのだ。
Disruptorとして認められることは、「既存サービスへの破壊者」ではなく「新しいサービスの創設者」と考えられているのである。

 

さて、ここからが本題のDisruptor 50の話である。これは、上記5社を含む未来を創るスタートアップが50社選定されているリストである。

日本での知名度は高くないと思われるが、2013年から二年連続でCNBCが企画・発表している。
西海岸のみならず世界的に参照されることが多々あり、英語圏では相当に影響力を持っている情報だ。

ビジネスモデル、創業者の経歴、ファイナンス状況、想定される市場規模等に加え、スタートアップが生み出す新しいエコシステム、といった総合的な評価からDisruptorと思われる会社が選出されている。

2014年度は合計で522の会社が候補になり、最終的に上位50社が決定した。

推薦者・選考者は米国の著名VCやイノベーション研究の第一人者達とCNBC Ventures。
具体的には、以下の通り。

VC:Andreessen HorowitzKhosla VenturesGoogle VenturesY Combinator
研究者:Rita McGrath(コロンビア大学教授、著書「競争優位の終焉」)、
Ron Adner(ダートマス大学、著書「ワイドレンズ イノベーションを成功に導くイノベーション戦略」)

ちなみに、日本から選出されたスタートアップはない。

今回のレポートでは、「日本で知名度がまったくないが世界的に有名なもの」の一例として、Disruptor 50についてお届けしたいと思う

まず目に付くのが、50社のうち、8割がIT・ネット関連企業。残りの2割弱は、(もちろんIT・ネットと無縁ではないが)人類の課題を解決することを目指す企業。
世界を変えることに対して本気な、人によってはクレイジーと思ってしまうかもしれないスタートアップも相当数選ばれている、と言える。

ちなみにそんな夢を追っている企業でノミネートされたものは以下の通り

  • 宇宙開発、衛星関連技術
    SpaceX(ロケット、衛星等の開発・打ち上げ)
    Skybox Imaging(衛星画像の分析サービス)
  • 環境、エネルギー
    Charge Point(EV充電ステーションの提供)
    Eco Motors(次世代エンジンの開発・製造)
    Cool Planet Energy Systems(バイオ燃料、バイオ炭の製造)
  • バイオ創薬
    Moderna Therapeutics(バイオ製薬)
  • 持続可能性の高い食品
    Hampton Creek Foods(卵を代替する食品の開発・製造)

多数を占めるIT・ネット関連企業を見ると、大きくは以下4点の特徴があるように思える。

① 個人間の「つながり」を活用
② 「所有からシェア・利用」への流れ
③ IT・ネットを利用し、従来と発想から異なるサービス
④ IT・ネット化を促進する技術・サービス

 

もう少し詳しく見てみよう。
(ここから少し長いので注意。それぞれの企業リンクでもクリックしながら読んでいただきたい)

① 人間の「つながり」を活用

Etsy(ハンドメイド、ヴィンテージ品のECサイト)

GitHub(SW開発のためのデータ共有ウェブサービス)

Uber(配車アプリ)

QuirkyソーシャルなR&Dプラットフォーム

AngelListベンチャー企業とエンジェル投資家、入社希望者をつなぐプラットフォーム

Pinterest写真共有サービス

Lending Club(P2Pファイナンス)

Fon(コミュニティWi-Fi)

 Airbnb(宿泊先のマッチングサービス)

Snapchat(メッセージアプリ)

Kickstarter(クラウドファンディング)

スマホ・タブレットの普及とネットの爆速化により「つながるためのインフラ」が発展「つながり」によって新たなビジネスチャンスが生まれていることは言うまでもない。
新たな地表を切り拓くDisruptorが多数誕生しており、Uberは既に時価総額1.7兆円。1500億円程度の資金を調達し、42か国に展開している。

(「つながり」を活かしたビジネス設計に必要な視点に関して、DIの「集合知とアーキテクチャ思考によるビジネスデザイン」の記事もご覧いただきたい)

 

②「所有からシェア・利用」への流れ

Spotify(音楽ストリーミングサービス)

Uber(配車アプリ)

Quirky(ソーシャルR&Dプラットフォーム)

Lending Club(P2Pファイナンス)

Rent the Runway(デザイナーブランドのドレスレンタルサービス)

Fon(コミュニティWi-Fi)

Airbnb(宿泊先マッチングサービス)

資産を持つ人が、自ら利用するだけでなく他の人たちに利用してもらい、相互に利用し合う。畢竟、「リソース/アセットの稼働率の情報の非対称性を解消するビジネス」である。

個人と個人が広く「つながる」ことによって可能になったインフラサービス。②の企業の多くは、①で挙げた企業と重複する理由ともいえる。

なお②だが、2009年以降に創業された企業が目立つ。リーマンショック後の不況が、人々の「所有」という観念に影響を与え、「所有から利用」とライフスタイルが変わってきたとも言えるのではないだろうか。

 

③ IT・ネットを利用し、従来と発想から異なるサービス

➢ 金融サービス (個人の投資、送金、保険など)

Motif Investing(オンライン投資ブローカー)

Transferwise(個人間海外送金サービス)

Personal Capital(富裕層向け投資管理・アドバイザリーサービス)

Wealthfront(投資アドバイザリーサービス)

Lending Club(P2Pファイナンス)

Oscar(オンライン医療保険)

Betterment(投資アドバイザリーサービス)

ほぼ全て2008年以降に創業された企業。
リーマンショック後、従来の金融業界への疑問や不満が爆発し、新たなスタイルの金融サービスが登場し、支持され始めたのかもしれない。

➢ ファッション・雑貨

Warby Parker(低価格・スタイリッシュなメガネのネット販売)

Rent the Runway(デザイナーブランドのドレスレンタルサービス)

Birchbox(化粧品等のサンプル詰め合わせの定期購買サービス)

➢ デジタルメディア

Aereo(TV番組ストリーミングサービス)

Fullscreen(YouTubeネットワーク。AT&TとChernin GroupのJVであるOtter Media、Yahoo Incその他複数のプレイヤーが買収を検討?ライバルのMaker StudioはDisneyが1000億円規模で買収済)

BrightRoll(デジタル動画広告プラットフォーム)

➢ 中小企業向け業務効率化支援サービス

Nebula(プライベートクラウド構築支援の機器、ソフトの提供)

Bill.com(請求・支払のオンライン一元管理システム)

➢ 不動産

Redfin(不動産のアシステッドコマース)

➢ 署名

DocuSign(デジタル署名)

 

④ IT・ネット化を促進する技術・サービス

➢ 通信

Nexmo(SMS送信サービス)

Fon(コミュニティWi-Fi)

Kumu Networks(ワイヤレスFull Duplex技術の開発)

Kymeta(先進的アンテナ技術の開発)

Twillio(電話・テキストメッセージ送受信用プログラム作成のためのAPI提供)

➢ 決済ツール

Zuora(Subscription型サービス向け課金ソフトウェア・ソリューションの提供)

Stripe(オンライン決済システムの提供)

Coinbase(ビットコインの決済サービス)

➢ ストレージ、データベース

Pure Storage(次世代プライマリストレージソリューション)

Dropbox(クラウド上のファイルホスティングサービス)

MongoDB(オープンソースのデータベース)

➢ セキュリティ

Palantir Technologies(不正探知ソフトウェアの提供、データ分析等)

Shape Security(ボット対策アプライアンス等のサイバーセキュリティサービス)

➢ その他

Yext(オンラインリスティングサービス)

Apptio(企業のIT関連コスト、品質、利用状況等を評価するSaaS)

 

長い。長いが非常に面白い。こんな世界が当たり前になると、今年49歳そして30歳である我々筆者は、「時代遅れ」で「デジタルデバイド」になってしまうのではないだろうか。

 

 

さて皆様は、Disruptor 50を見て何を感じただろうか?

我々は「つながる世界」に脅威と驚異を憶えた。
個人同士の「つながり」がかつては存在しなかった①や②のようなサービスを生み、既存の世界をDisruptしている。これは近年のビジネスの大きなトレンドと言えるのではないか。

そしてこれは、米国だけの話と思うなかれ。「つながる世界」はFacebookTwitterのように、全世界に拡散する。
例えば、サンフランシスコ発のUber。既に42か国に展開している。
触発されたかのように、グローバルで配車サービス関連のスタートアップが生まれており、それぞれに大きな投資がなされている。

米国 Lyft 330億円調達
英国 Hailo 77億円調達
ブラジル Easy Taxi 77億円調達
インド Olacabs 67億円調達
シンガポール GrabTaxi 25億円調達

Disruptor 50には、2002年創業のSpaceX、2003年創業のDocuSignなど、ベンチャー界の「老舗」的な企業もある一方、2009年以降に創業された企業が28社と過半数を超えている。

一番新しい企業は、2013年に創業されたOscar。既に150億円を調達済。米国の医療保険の課題にうまくマッチしたオンライン保険サービスを提供したことで、既存業界をDisruptし短期間で成長している。

また、2013年版のDisruptor50と2014年版の顔ぶれを比べてみると、50社中33社が入れ替わっている。*1
新しいビジネスが次々に生まれ、社会にインパクトを及ぼす存在に成長している力強さがスタートアップにはある。

少し話題がそれるが、こういった新しいビジネスの成長を支えるのが、本リストの推薦者であるVCである。

米国では、VCの資金、人脈、経営へのアドバイス等がベンチャー企業の発掘や成長に大きな役割を果たしていることは周知の通りであるが、この50社のファイナンス総額*2は1兆円を超える。
平均値に換算*3すると、1社あたり200億円相当の投資が行われていることとなる。
個別の調達額を見てみると、多いところでUberの1,500億円、Dropboxの1,100億円、少ないところでもKickstarterの10億円である。

全世界ではベンチャー企業に毎年7~8兆円が投資されている、とのこと。*4
有望なベンチャー企業を支援するエコシステムの大きな存在感にも、改めて驚嘆である。

「つながる世界」の住人として、2014年版Disruptor 50にも、これから出てくる新たなDisruptor達にも、引き続き目が離せない。

Disruptorとは既存の秩序を改良、時に破壊しながら、新しい利便性を提供し、大きなビジネスチャンスも生む。人類にとって有益な社会新陳代謝なのかもしれない。

決して新興企業だけがDisruptorになるわけではなく、幾つかの老舗巨大企業も積極的にDisruptをしている。その話はまた次回に譲る。
DIは、「Disrupt」という言葉のポジティブな意味を広め、皆がDisruptorになることを望む土壌を育み、そして、Disruptor 50のようなリストに日本企業が選ばれるためのお手伝いをしたいと思っている。

 


*1 2年連続で選出された企業は、SpaceX, Warby Parker, Etsy,Palantir Technologies, Aereo, Spotify, Uber, Quirky, Wealthfront, Dropbox, Pinterest, Lending Club, Rent the Runway, Airbnb, Kymeta, Twilio, Kickstarterの17社。なお、Disruptor 2013にランクインしながら2014にはない33社については、IPO(申請含む)4社、買収6社、その他23社。同23社については、「つながりを活かしたサービス」、「所有から利用への流れに沿ったサービス」という性質は弱い傾向
*2 2014年6月時点。(Skybox Imagingについては、Googleが買収する前にVCが投資した金額)
*3 $1=\100で算定
*4 Andreessen Horowitz調べ


山川 隆義

代表取締役社長 山川 隆義

京都大学工学部及び同大学精密工学修士(生産システム専攻)。横河ヒューレットパッカード(現・日本HP)、ボストンコンサルティング グループを経て、DI創業に参画。DIでは、ベンチャーの投資・育成、大企業コンサルティングともに、数多くのプロジェクトに従事。ベンチャー分野では、多くの企業のIPOに貢献すると同時に、新規ビジネスの創出、新たなビジネスモデルの発掘を手がける。また、大企業コンサルティング分野では、「日本の強みを世界に展開」するため、ハイテク、消費財、エンターテイメントの分野を中心にプロジェクトを実施し、新たな事業創出に取り組んでいる。

ビジネスプロデューサー 大野 秀晃

慶應義塾大学法学部政治学科卒業。ゴールドマン・サックス証券を経て、DIに参加。ゴールドマン・サックスでは、香港・東京オフィスで各3年間、人事業務全般に従事。主に汎アジア証券部門の人事戦略構築と執行を担当。DIでは、国内外ベンチャーの投資判断、事業投資先の中長期戦略策定及び実行支援、エンタメ・コンテンツ等の分野におけるDI自身の次世代事業創出案件等、幅広い業務に従事。

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