【第2回】ITの歴史から見えてくる
メッセンジャー × Botの流れ

Category: Column
2016.05.16

前回は、メッセンジャー×Botの波が来ていること、それは既存のスマホアプリを代替する可能性を秘めていることを紹介した。本稿では、突如始まったかにも思えるこの流れが、なぜ始まったのか、その根源的な理由は何なのか、ITの歴史を振り返りながら、その背景について見ていきたい。

 

■ITの歴史を紐解いたときに見えてくること

過去30年を振り返ってみると、今回のようにサービス提供の形が大きく変化するターニングポイントがいくつか存在した。

始まりはマイクロソフトが支配していたクローズドなデスクトップ型PCソフトからオープンなウェブへの移行(90年代後半)。次の大きな変革は2008年頃に起きたウェブからGoogle, Appleが支配するモバイルアプリへの移行だ。

そして2016年、モバイルアプリからメッセンジャーとBotからなる会話型のサービス提供へ移行しようとしている。

 

サービスを提供しているシステムの処理が主にどこで行われているのか、という観点からこれらの変遷を見てみると、クライアント側、サーバー側の処理を行き来していることがわかる。これは一体何を意味しているのだろうか。

ITの歴史

出所https://www.theinformation.com/on-bots-conversational-apps-and-fin

 

サービス開発の根底には、サービスを多くの人に利用してもらいたいという意志があり、おそらくその意志は昔も今も変わっていない。この変遷は、開発者が進歩するテクノロジーと共に、その意志を追い求めてきた結果なのではないかと思う。

 

最初にPCからウェブに移行した理由もそれだ。ウェブへの移行により、開発者はMicrosoftの支配から解き放たれ、ウェブを通じて多くの人に無料でサービスをできるようになった。何よりサーバー側に移れば、開発言語や環境に縛られず、自由に開発ができた。

 

2008年にウェブからアプリにシフトが起こった理由も同様だ。スマホ利用者が爆発的に増え、App Storeが登場し、モバイルアプリでサービスを提供すれば、多くの人に容易にリーチできるようになった。加えて言えば、App Storeの存在によってマネタイズが容易になったことも、その動きを加速させた。

 

またユーザーから見てもアプリは革新的だった。PCウェブを引きずった使いづらいモバイルウェブに比べ、モバイルに最適なインターフェイスを備えていたからだ。携帯を開けば、すぐそこにアプリのアイコンがあり、簡単に利用できた。ユーザーとの距離がより近くなったと言えよう。

 

しかし、アプリに移ると同時に、開発者は自由を失った。クライアント側へ移ったことで、限定された開発言語/環境、OS/機種ごとに必要な変更、面倒なアプリの承認手続きを踏まなければサービスを提供できなくなったのだ。ユーザーにも、サービスを使う度に、アプリをダウンロード、インストールするという面倒さがつきまとった。

 

サーバー側からサービスを提供できれば、問題は解決できるのだが、それではサービスを広く提供することはできない。App Storeを凌ぐチャネルが存在しなかったのだ。

 

しかし、今やメッセンジャーがある。前回お伝えしたように、何億人という人がメッセンジャーを使う時代。ユーザーに広く簡単にリーチできるチャネルが出来上がったのだ。とはいえ、これまでメッセンジャーはあくまでメッセンジャー。アプリとは異なるものだった。

 

そこへテクノロジーが追いついてくる。Botの登場だ。

メッセンジャーのプラットフォームとBotを組み合わせて、アプリと同様のサービスが提供できるようになったのだ。

Botの登場

 

Botの時代になれば、開発者はApple、Googleの支配から解放される。その昔 Microsoft の支配から解放されウェブの時代が到来したときと同じく、好きな言語/環境で開発を行い、複雑な処理も端末のスペックを気にすることなくサーバー側で行える。これまで以上に優れたサービスを広くユーザーに提供できるようになるのだ。

 

そしてユーザーにもより受け入れられやすくなってくる。ダウンロードの必要はないし、なによりBotの時代になれば、個別のカスタマイズが可能になる。アプリでは全てのユーザーに同じアプリを提供していたが、Botではその必要はない。例えばCRMのデータを利用し、ユーザーに応じてレイアウト、機能、コンテンツをカスタマイズして最適な形でサービスを提供できるのだ。

 

いくぶんか発想が飛躍している部分もあるかもしれないが、こうしてアプリからBotの時代への変化が起こったのではないかと思っている。

 

ここで重要なのは、アプリからBotへの変化は、それまでの変化と大きく異なっていることだ。それまでのウェブ、アプリでのサービス提供はあくまで、人間が使うための個別の道具であり、旅行であればこのサービス、地図であればこのサービスと、ユーザー側がサービスを意識して使い分ける必要があった。

 

Botの時代では、サービスを意識する必要がなくなる。

サンフランシスコへのチケットを手配してほしい、とBotに頼めば、適切なところ(それはどこかのサービスであるかもしれないし、人かも知れない)から情報を取得して返してくれるようになるのだ。Botは道具ではなく、会話相手であり、これまでのサービスと比べて、より人間に近くなったと言えるだろう。

 

この人間に近くなっていくという流れは、Botに限らず、様々なところで見られる。

 

AppleのSiri

AppleのSiri

AmazonのEcho

AmazonのEcho

まだ発展途上ではあるが、話しかけるだけで、AIがサービスを提供してくれるAppleのSiriやAmazonのEchoなどもその一例だ。究極的には人間が意図せずとも(入力しなくても)、最適な情報を提供してくれるインターフェイスになっていくだろう。そう考えると、BotのライバルはSiri、Echoであり、より人間に近い場所を確保したサービスが全てを支配する世界になっていくのではないだろうか。

 

以上、ITの歴史を振り返りながら、なぜメッセンジャーとBotという組み合わせが登場したのかを見てきた。アプリの時代から、メッセンジャーとBotの時代になるという流れが、少しでもイメージいただけただろうか。

 

しかしながら、時代は変わりつつあるものの、Botの時代はまだまだ始まったばかり。各企業の争いも、これらどんどん熾烈になっていくことが予想される。アプリ時代の覇者であったAppleから、メッセンジャープラットフォームを抑えているFacebook、LINE等へと覇権は移ろうとしているのかもしれない。

 

最終回となる次稿では、Botの時代を見据え、各企業がどんなサービスを提供し始めているのか、最新の事例を交えながら各企業の熾烈な戦いの模様を紹介していきたい。

 


ビジネスプロデューサー 中野 裕士ビジネスプロデューサー 中野 裕士

東京工業大学工学部卒業
同大学院理工学研究科電子物理工学専攻修了
株式会社じげんを経て、DIに参加

株式会社じげんでは、ベトナム子会社を立ち上げ、代表取締役社長に就任。現地では50名規模のオフショア開発、および現地向けウェブサービス事業を展開し、事業戦略策定、マーケティング、人材採用/育成等幅広い業務に従事

DIでは、投資先であるWrap Media等、海外投資先におけるアジア展開の中心的メンバーとして、成長戦略及び事業展開戦略、実行支援などに取り組む。また国内では、製造業の新規事業戦略策定、消費財メーカーのブランド戦略などのコンサルティング業務に従事。

 

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