スーパー官僚が語る、管理職の3つの心得

経産省 製造産業局 生物化学産業課長 江崎禎英(下)


東洋経済オンライン連載 2014.5.7

Category: Interview
2014.05.07

江崎禎英氏

 

受験エリートが陥る罠

三宅:そのためには、江崎さんの心も健全じゃないといけないですね。

江崎:そうですね。参考になるかわかりませんが、私は岐阜県庁の部長時代に、部内の課長さんたちに「管理職三訓」ということを申し上げてきました。管理職としての心構えです。

 第一訓は、「仕事は難しいほうから手をつけろ」。役人は受験時代の成功者が多いので、皆、本能的に簡単な仕事から片付けて80点を採ろうとします(笑)。でも社会に出ると本当に重要なのは、難しいほうの20点分の仕事です。実際のところ、易しいほうから50点分くらいの仕事は、やらなくてもいい場合が多い。要は、難しいほうの20点分の仕事に手をつけるかどうか。解決できなくてもいいのです。自分が取り組んだ方法では解決できなかったという経験が、後任の役に立つ。いちばん困るのは、何もしないで先送りされることです。

三宅:なるほど。

江崎:それに、難しくて皆が避けて通る仕事は誰も手をつけていないので、思い切って取りかかってみると、意外に成果が出るものです(笑)。ただし最初は非常に苦しい。そこで逃げないことが大事。しかし、意外にうまく行きそうだと思うと、必ず落とし穴がある。我慢して進むと、さらにもう1回、大変な目に合う(笑)。経験的にこのパターンが多いですね。そこをどう乗り越えるか。

三宅:前回お伺いした店頭市場改革も、そんな感じでしたね。

江崎:第二訓は、「人は活かして使え」。組織では職員にプレッシャーをかけて仕事をさせようとすることが多いけど、同じ仕事をするなら楽しいほうがいい。ひとりの人間がどんなに優秀でも、3人の凡人には勝てません。ひとりが徹夜で働くより、いろんな人がそれぞれの能力を発揮したほうが、はるかに大きな成果が出ます。

 われわれ公務員の仕事は、売り上げ目標を達成したらいいというものではありません。答えがないところに答えを出すのが仕事です。すべての職員がそれぞれに力を発揮できる環境があるといい仕事ができるし、思わぬ発見があって楽しくなります。

三宅:三訓目はなんでしょう?

江崎:「健康でいろ」です。管理職、リーダーの役割は健全な判断をすることです。体調が悪かったり、寝不足だったりすると、ついつい判断を先送りしたり、面倒な仕事を避けようとしてしまいます。同じ仕事でもタイミングを間違えると重大事故になったりすることは少なくありません。

 「仕事は難しいほうから手を付けろ」「人は活かして使え」「健康でいろ」の管理職三訓は、まだまだ私自身の課題でもあります。反省も込めてそう思っています。

三宅:江崎さんはいつも、仕事をするには現場の人の話を聞くことが大切だとおっしゃっていますね。

江崎:ひとりの人間が一生懸命やっている仕事には、必ず人を感動させるドラマがあります。その分野のことを知りたければ、そこで働いている人に聞くのがいちばんいい。われわれ行政の人間にとっては、「政策の課題」だけでなく、その「答え」も現場にあります。相手の話をちゃんと聞いてみると、ああここだよねというポイントが見えてくる。それをどうやって実現するかに全力を注げばいい。そうなると仕事って楽しくなる。

三宅:最後に、これから挑戦していこうとする若い人にメッセージをお願いします。

江崎:スマートに生きようとしないでほしい。頭のいい人は先が見えすぎるので、初めから難しい問題を避けてしまいます。今、それなりに評価していただいている仕事は、どれも最初はカッコ悪いことばかりでした。あいさつに行っても無視され、多くの人の前で罵倒され、電話にも出てもらえない。それでも我慢して言うべきことは言う。ここを避けてしまうと、あとの組み立てが全部変わってしまうのです。

三宅:罵倒されても引かないで、闘うときは闘うと。

江崎:けっこうつらいですけどね。でも、ここで頑張れば、世の中の不条理がひとつ減らせるかもしれない。そう信じてドキドキしながら手を挙げています(笑)。すべてはそこからです。

 もうひとつは、「普通の感覚」を持ち続けてほしい。「知識」と「常識」にとらわれないで、おかしいことは、おかしいと思うこと。いろいろ事情はあるし、経緯はあるかもしれないけど、「これはヘンじゃないですか?」と言える感性を持ち続けてほしいですね。そうすれば、今、世の中のために自分が何をすべきかが、きっと見えてきます。

(構成:仲宇佐ゆり、撮影:ヒダキトモコ)

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