「越権行為」からイノベーションが生まれる

富士フイルムのプロデューサー、戸田雄三氏に聞く(下)


東洋経済オンライン連載 2014.3.19

Category: Interview
2014.03.19

 

学ぶべきは、原理

三宅:新しいチャレンジはいろいろな分野の融合から生まれるわけだから、逆に言うと、研究が分業になっているとイノベーションは生まれない。岡目八目で越権行為をすることによって、いろいろなものが生み出せるのではないでしょうか。

戸田:そうだね、越権行為をしたくなったということは、自分の体験を原理化したわけですよ。原理化したから、ここだけじゃなくて、そっちでも使えるじゃないかと思った。ひとつの体験では原理化はできません。複数の体験を横串に通して、初めて原理化、普遍化できる。これを使ってくださいと自信を持って言える。もちろん、これは原理化じゃないと突き返される場合もあります。それを繰り返して進化していくんですよ。

三宅

三宅:なるほど、原理化すると越権行為に意味も出るし、それもしたくなる。それで戸田さんの「越権行為」は、どのくらい受け入れられたのですか?

戸田:簡単には受け入れてもらえませんでした。でも、苦労した分、達成したときの喜びは大きい。だからそこには非常にいい思い出しかないのです。それにしても越権行為という言葉がなぜ出てきたのかを、理解しておく必要がある。プロテクションなんだよね。要するに人がいいことをやったら見て見ぬふりをして、自分のオリジナリティを外敵から守る。
僕はもったいないと思うよ。人がいいことをやったら、取り入れたほうが自分も楽ですからね。

三宅:ほとんどの組織、特に大企業は越権行為を嫌いますよね。それでも越権行為をやたらとした戸田さんが許容されたということは、富士フイルムにはそういう風土があったということでしょうか?

戸田:風土はありましたね。原理を大事にする会社ですから。これも新入社員研修のときの経験ですが、先輩からテーマを与えられて、1カ月後に発表会をすることになっていました。そうしたら、製造部長がその先輩に向かって、「きみは新入社員にこんなくだらないテーマを与えているのか」と怒り出したのです。僕は面白いことが始まったなと身を乗り出したんですけど(笑)、その人は、「こんなくだらない仕事はきみがやれ」とその先輩に言うんですよ。

三宅: そんなにつまらないテーマだったんですか?

戸田:つまり製造現場には火事場の処理みたいなテーマがあって、それを解決しないと製品が出ていかない。だから仕事としては非常に大事だけど、新入社員に与えるテーマではない。単に手足として手伝わせているだけじゃないか、新入社員にはもっと原理的なことを学ばせろ、ということなのです。

 そういうことをズバッと言える人が製造部長でした。オレたちの商品は信頼だぞ、と言う係長がいて、そのまた上司がこういう人だった。だから毎月の製造技術検討会で製造部長が何を発言するかが、僕の中の物差しになっていました。

三宅:なるほど。戸田さんは製造の後、開発から研究所に行って、いろいろな境界領域を試していかれたわけですが、最初の製造でさまざまな成功体験、失敗体験をされていたのですね。ところで今、富士フイルムの技術やその研究の進め方は、多くの企業から注目されています。技術、研究を大事にする風土は昔からあったのですか?

戸田:製造の現場でも、技術を守る、技術が中心という雰囲気があります。製造の隊長みたいな人も原理化にこだわっていました。

 僕がオランダにいたとき、ヨーロッパでは他社ブランドが圧倒的に強かったのです。富士フイルムの感度400の製品はすばらしく品質がよかったのですが、現地の人は真の競争力を知らなかったのですね。自信を持って売ってもらいたいと思い、あるときライバル会社と自社の現像前の写真フィルムを20枚ぐらい並べてみました。すると、ライバル会社の写真フィルムは五色沼かマーブルチョコレートのように色がバラバラなのに対して、富士フイルムの写真フィルムは全部が同じ色でした。

 

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