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リバースタイムマシン経営:新興国から生まれるイノベーション  ~先進国に攻め入るMarket Creating Innovation~

2015.2.13

本稿でお伝えしたいことは、「新興国企業に注視せよ」である。「新興国」ではなく、「新興国企業」 に注視せよ、だ。以下では、イノベーション論の大家である、クリステンセン教授が唱える“Market Creating Innovation”を参照しつつ、新興国企業の中でも市場創造のイノベーションを起こし、先進国に攻め入った/攻め込まんとする企業・サービスの具体例として、中国の「シャオミ」・「アリババ」、ケニアの「Mペサ」をご紹介し、新興国企業に注視すべき理由について論じたい。

※クリステンセン教授へのインタビュー記事は こちらをご参照


新たな概念~Market Creating Innovation~

Innovationという概念・定義を経済学者シュンペーターが提唱してから約100年が過ぎた。その間、次々に新たなタイプのInnovationが生まれ、そして様々な切り口から定義がなされている。そのような中、「イノベーションのジレンマ」の著者でお馴染みのハーバードビジネススクールのクリステンセン教授により、FOREIGN AFFAIRS January/February『The Power of Market Creation』の中で新たに「Market Creating Innovation」の概念が提唱された。彼の定義によれば、雇用/経済成長創出の観点から、Innovationには大きく3種類存在する。

  1. Sustaining Innovation:
    既存の製品・サービスをリプレイス(代替)するイノベーション
  2. Efficiency Innovation:
    既存の製品・サービスの効率性を高め、コスト削減を可能にするイノベーション
  3. Market Creating Innovation:
    既存の製品・サービスを利用できなかった人を消費者に変えることで、新たな市場を創り出すイノベーション

このイノベーションが与える変革へ対応するために、多くの日本の企業は、米国をはじめとする先進国の大企業やテクノロジーベンチャーの動向を注目し、以下2点を検討しているように見受けられる。

  1.  「日本に攻め込んでくる敵」としての認知による守りの戦略の構築
  2.  「模倣の対象・業界トレンド」としての認知による攻めの戦略の構築

しかし、このグローバルかつ業界の壁を越えた競争環境におかれている現代社会にあって、先進国の企業ばかりが日本に攻め込んでくるわけでは当然ない。本稿では③Market Creating Innovationを下敷きに、過去~現在において国内外で「新たな消費者を作り出した」企業の事例を見つつ、新興国企業が上記2戦略構築への示唆へと繋がること、すなわち、彼らが決して無視のできない強大な敵になり得ること、そしてまた、世の中の大きな潮流を作り出す台風の目になり得ることを示していきたい。


かつての新興国日本から世界を変えた日系Market Creating Innovative Companies

Market Creating Innovationを理解する上での好例は、他でもない日本企業だ。戦後の復興に向けた自動車、オートバイ、家電、事務機器を中心とした日本のモノ作りは、価格の関係などで先進国の製品・サービスを享受できない日本人を ”消費者” に変えてきた営みそのものである。更に、それらの多くが日本市場で培われた品質・価格競争力を携え、米国、世界へと進出していったのである。

例えば、オートバイ市場におけるホンダの例を見てみたい。

第二次世界大戦の終結から7年が経った’52年。日本では商業用の中距離移動手段への需要が高まっていた。しかし、当時の日本人の一人当たりGDPは実質ベースで2,000ドル。欧州先進国の半分以下、米国との比較においてはわずか1/5程度であった。先進国のオートバイを買う余裕などあろうはずもない。

そこでホンダは、50ccエンジン付きの原動機付き自転車「カブF型」を25,000円で売り出した。先進国のオートバイと比べれば圧倒的に安価な上、更に平均的サラリーマンの初任給3か月分以上のこの価格に12ヶ月分割払いのローンも用意した。こうして火がついた市場の創造で日本は’60年にフランスを抜き、世界一のオートバイ市場となった。

日本での成功を果たしたホンダは、’59年に早くも米国へと進出する。日本市場で培った圧倒的なコスト競争力を武器に、当時6万台/年程度だった米国市場に攻め込み、’65年には26万台を販売し、同国のオートバイ市場の牽引に寄与した。

今では世界のオートバイ市場の半数近くのシェアを維持し続ける日本4強(ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキ)は、日本という新興国でのMarket Creating Innovationに端を発していたのだ。


新興国で次々と生まれているMarket Creating Innovation

経済成長目覚しい新興国では、Market Creating Innovationが次々と生まれている。言うまでもなく、低い所得水準、インフラの未整備などが原因で先進国の既存製品・サービスを利用できない潜在顧客による市場成長ポテンシャルは計り知れない。世の中では、米国で生まれたサービスやビジネスモデルを時間差で日本、新興国と展開していく手法を「タイムマシン経営」と呼ぶが、広く事例を調べていけば、今や新興国から先進国への ”逆流” も決して少なくはない。本章ではこの ”逆流” 、すなわち新興国で生まれ、先進国に進出を果たしたMarket Creating Innovationの例をいくつかご紹介したい。

 

<新興国需要でコスト競争力をつけ、今まさに世界に出ていかんとするシャオミ>

先進国企業と同等レベルの製品を、新興国の消費者にも手の届く価格で提供するプレイヤーが生まれることで、爆発的に市場が立ち上がる典型例は韓国のサムスン電子、LGエレクトロニクス、ヒュンダイ、台湾のエイサー、インドのタタ自動車と枚挙に暇がない。

彼らは競合の少ない自国でまずマスを取ることで圧倒的なコスト競争力をつけ、先進国を含む世界市場に飛び出していくのである。まさに先にご紹介したホンダの事例そのものだ。

同様の例として、近年中国で急激に伸びているシャオミという企業をご紹介したい。’10年に創業した同社はAndroidを基にした独自OS “MIUI” を搭載したハイスペック携帯を安価に作り、自社サイトで販売するメーカーである。そのスペックはiPhoneやGALAXYの最新機種に匹敵し、それでいて価格は半額以下と、正しくMarket Creating Innovationと呼ぶに相応しい製品販売・事業展開をしている。

‘14年には中国国内の販売台数シェア1位をサムスンから奪い、直近の決算では創業5年目にして売上高約1.5兆円、販売台数約6千万台と凄まじい勢いで成長している。中国を制したシャオミの世界シェアは、’14年3Qでサムスン(24%)、アップル(12%)に続く第3位(5%)である。

現状、シャオミの携帯本体の販売事業展開エリアは新興国にとどまるが、雷軍CEOは海外進出戦略の中で、まずは香港、マカオ、台湾といった近隣地域、次にインド、ブラジル、ロシアなどの新興国へ参入した上で最終的に欧米を狙うという3段階を踏む構想を掲げている。訴訟問題やバリューチェーンの構築など、世界進出へのハードルは多々あるものの、シャオミ製スマホ片手に街を歩く若者を見るようになる日は、そう遠くないかもしれない。

 

<ビジネスモデル変換で、EC業界にフリーミアムの概念を広めたアリババ>

去年の9月、ニューヨーク証券取引所で約25兆円(2,314億ドル)の時価総額を付け、日本でも紙面を賑わしたアリババの上場は記憶に新しい。彼らもまた、中国という新興国で生まれたMarket Creating Innovative Companyに他ならない。

フリーミアムという言葉をお聞きになったことがあるだろうか。基本サービスを無料で提供しつつ、高度な機能や特別なコンテンツに対して課金するビジネスモデルである。具体的には、無料で遊びながら時に有料アイテムに課金する携帯ゲームをご想像頂くとわかりやすいだろう。デジタル化で物理コストが0になることで実現可能なビジネスモデルであり、ニコニコ動画のプレミアム会員、アマゾンプライム、gmailのストレージ拡大、LINEスタンプと例を挙げれば気づくように、その領域は非常に多岐に渡る。この概念をEC業界に導入し、大成功を収めたのがアリババなのである。

アリババは世界最大のECグループ。’14年3月期決算では売上高約9千億円、純利益約4千億円、流通量は32兆円で楽天の20倍近くと圧倒的なスケールである。中国国内の8割を超えるシェアを持つ同社のECサイトは、大きくは以下の3つから構成されている。

  1. BtoBのアリババドットコム(’99年~):企業間取引用で、出品者とバイヤーが集うプラットフォーム
  2. CtoCのタオバオワン(’03年~):個人間オークションプラットフォーム
  3. BtoCのTモール(’07年~):個人が企業から買い物をする店舗出店プラットフォーム

 

BtoB事業は、典型的なフリーミアムモデル

アリババドットコムが開設された’99年前後は、海外小売業者がこぞってPBを立ち上げた時期である。彼らはコストの安いサプライヤー確保のため中国に着目していた。しかし、自社サイトを持ち、海外へのアピールを行える資金的余裕を持つ新興国の中小企業がいかに少ないかは想像に難くない。そこでアリババは出店登録料・取引手数料を無料とし、一気にプラットフォームに人を呼び込んだところで、売り手へのコンサルティングと買い手への与信認証サービスで収益を上げるフリーミアムモデルを確立した。

 

toC事業は、2サイト間でフックと回収エンジンを組み合わせたフリーミアムモデル

‘03年、個人間オークションサイトで大成功を収め、中国に進出を果たしたイーベイへの対抗策として、アリババは出店料・落札手数料共に無料のタオバオワンを開設。後発にも関わらず、取引にかかる費用を少しでも抑えたい中国消費者の支持を獲得し、約3年後にはイーベイを中国から撤退させることに成功した。しかし、取引のほとんどが無料のタオバオワンには売上げの源(回収エンジン)が存在していなかった。そこで、アリババは’07年、販売手数料や出店料が設定されたBtoCサイトのTモールを設立する。タオバオワンで大きく育ち、更なるビジネス拡大を狙った出品者が法人としてTモールにお金を落とすことで、収益化が実現した。2サイトを跨いで設計したフックと回収エンジンでフリーミアムモデルを作り上げたのだ。

このように、アリババもまたフリーミアムモデルの確立で、潜在的な出品者をサービスの利用者に変え、中国でのEC市場を創造したMarket Creating Innovative companyであると言えよう。

アリババの世界進出が成功するかは定かではないが、筆者はここで「EC業界へのフリーミアム化」というビジネスモデルを先進国へ ”逆流” させた事実について強調したい。’13年10月、ヤフージャパンは「eコマース革命」と銘打ち、「Yahoo! ショッピング」の出店手数料を無料化した。これはタイムマシン経営の逆流、リバースタイムマシンと言えないだろうか。

 

<未発達の銀行インフラを携帯電話で補完し、新興国の送金プラットフォームに成長したMペサ>

‘07年、通信事業者サファリコムがボーダフォンとの提携で、携帯電話を利用した送金サービス「Mペサ」をケニアで立ち上げた。ケニアでは銀行インフラの整備が未発達で、当時の銀行口座保有者はわずか2割以下。そんな中、急激に利用が広がる携帯電話に目を付けスタートしたのがMペサである。ケニア国内に約4万店存在するMペサ代理店(携帯ショップやスーパーなどパパママ店が中心)で現金を預け、その旨を伝えるショートメールを相手に送ると、受け取った相手は最寄りの代理店でその現金を受け取れるという簡単な仕組みでの送金を可能にした。

銀行の送金サービスを利用できなかった人を消費者に変えたMペサのアクティブユーザは、現在約2千万人。年間の取引額は個人間取引だけでも1.5兆円に達し、ケニア国内においては、GDPの約4割に相当する資金移動を実現しているという。同国の送金インフラとして大成功を収めたMペサは、アフリカではエジプト、タンザニアを初めとする数カ国、更にはインド、ルーマニアへの進出も果たしている。銀行口座を持たない消費者は世界の人口の7割を占めているとされ、その拡大余地はまだまだ存在するだろう。勿論、ATMを初めとした銀行インフラの整う先進国への参入は容易ではない。しかし、既にMペサの類似・関連サービスは世界中で立ち上がっている。本家Mペサを含め、その中から先進国への侵略に成功するサービスモデルが生まれるのも、時間の問題かもしれない。


先進国企業か新興国企業かなど、もはや関係ない時代がやってきた

本稿では、Market Creating Innovationという切り口で新興国企業を覗いてみた。冒頭で申し上げた通り、新興国企業が敵にもなり、模倣の対象にもなり得るということをご理解頂けたのではないだろうか。

前門の虎後門の狼ということわざがあるが、今日の日本企業は非常に難しい立ち位置にあるように思う。ITがもたらした変化により、言うまでもなくグローバル化のハードルは下がり、そしてそのスピードは日々増してきている。先進国企業に注視をしがちな日本企業には、ふと背後から現れた新興国企業に寝首を掻かれぬようにと、警鐘を鳴らしたい。

敵はいつでも死角からやってくるのだから。

 

<出所>

 


 

ビジネスプロデューサー 山田 悠太郎

早稲田大学理工学部経営システム工学科卒業。東京工業大学大学院イノベーションマネジメント研究科技術経営専攻(MOT)を修了後、DIに参加。様々な業界の大企業に対する戦略コンサルティングに留まらず、新規事業の創出/実行にコミットするビジネスプロデュースに従事。