NEXT GENERATION

ホームNEXT GENERATION

“FinTech”が生み出すNext Generation ~受け継がれる人脈サイクル~

2015.1.22

近年急激に注目を集めているFinTechとは一体何者なのか、3回にわたってその正体を暴いていくこのシリーズ。
第1回目の記事では、具体的なデータや事例を用いながら、国内外のFinTech業界を俯瞰した。
第2回目となる本稿では、「人」に注目して、FinTech躍進の背景をさらに深く見ていきたいと思う。


FinTech業界躍進の背景にあるのは「人の繋がり」

第1回目の記事の最後に、日本のFinTech業界が躍進するためには、政府・大企業・ベンチャーの3者を巻き込んでいく取り組みが必要である、と書かせていただいた。
海外、とりわけ米国のFinTech業界では、政府・大企業・ベンチャーの3者による協力関係が密に構築されており、FinTech関連スタートアップが生み出すイノベーションを、社会インフラとしての金融システムに取り込んでいくことに成功している。

この成功の背景には、何があるのだろうか。

ng0122

上の図は、米国FinTech業界の人の繋がりの一部を描いたもの。
実は、成功の背景にあるのは、幅広いステークホルダー・業界をまたぐ「人の繋がり」なのだ。

これから、ここに描かれている人の繋がりがどのようにFinTech業界の躍進に貢献しているのかを説明していきたいと思う。


Paypalマフィアがここにも

テスラ・モーターズ、スペースXを立ち上げたイーロン・マスク、LinkedInの共同開設者であるリード・ギャレット・ホフマン、YouTube創立者の一人であるチャド・ハーリー、と世界を変えるようなサービスの背景にはPaypal出身者が垣間見える。

日本ではあまり注目されていないかもしれないが、実はFinTech業界においてもPaypal出身者の活躍は見逃せない。
・FinTechの祖とも言えるPaypalの出身者がFinTech業界に大きな影響を及ぼしているのは、言われてみれば当たり前ではあるのだが…

先日の記事で紹介したPersonal CapitalのCEOであるBill Harrisも実はPaypal出身者の一人である。
日本ではあまり知られていないが、Bill HarrisはPaypal、Intuit(大手会計システム)のCEOを歴任したFinTech業界の”ドン”とも言える人物。
彼が、25年間におよぶFinTech業界における経験を元に、満を持して立ち上げたのがPersonal Capitalである。
・Personal Capitalは、Disruptor 50で第17位にも選ばれた、富裕層向け投資管理・アドバイザリーサービス
・参考:Bill HarrisがPaypalとIntuitでの経験を語ったインタビュー動画

Paypalマフィアの中でも”consigliere”(マフィアの顧問)と称されたMax Levchinも忘れてはいけない。
Max Levchinは、Paypalの共同創業者であり元CTOとして知られているだけでなく、Googleに1億8200万ドルで買収されたSlideのFounder&CEOとしても有名な人物。
そんな彼がSlide売却後に立ち上げたのが、オンライン決済ソリューションのAffirmである。
・Affirmは、たった2タップで全てのモバイル決済を行うことができることで有名なFinTech関連スタートアップであり、次世代の決済ネットワークを構築することを目標にしている会社
・参考:Affirmに関するMax Levchinへのインタビュー記事

Googleが果敢にもモバイルペイメントに参入するということで当時一躍話題となったGoogle Walletに、Paypal出身者が関係していたのを知る人は多くはないだろう。
Google Walletの開発者であるOsama BedierとStephanie Tileniusは、実は元Paypal役員。二人はPaypalのモバイルペイメント戦略について全てを知る立場にあり、そこで得た情報を元にGoogle Wallet戦略を作り上げたのだ。

先日の記事でも紹介したオンライン決済システムのStripeは、Paypalが築いた一時代を取って代わろうとしているスタートアップである。
そして、驚くことに、この打倒Paypalを目指しているスタートアップにですら、Paypalマフィアが深く関わっている。
先ほど紹介したPersonal CapitalやAffirmとは違い、経営層やボードメンバーを見ても一見関係は見えてこないが、実は、投資家に目を向けてみると、皆さんご存知のピーター・ティール、イーロン・マスクがシードラウンドから名を連ねている。
となれば、シリーズBラウンドからSequoia Capital、シリーズCラウンドからFounders FundやKhosla Venturesが投資家として入っているのも偶然ではないだろう。
・Sequoia Capitalは、PaypalでCFOを務めていたRoelof Bothaがパートナーを務めるベンチャーキャピタル
・Founders Fundは、ピーター・ティールが立ち上げたベンチャーキャピタル
・Khosla Venturesは、PaypalでSenior Executiveを務めた後、スマートフォン決済SquareのCOOをも務めていたKeith Raboisがパートナーを務めるベンチャーキャピタル

このように、投資家やアドバイザーという側面でも、Paypalマフィアの影響力は無視できない。

投資家として成功しているPaypalマフィアといえば、LinkedInの共同開発者で有名なReid Hoffman
の名が真っ先に挙がるだろう。
「この10年で最も成功している投資家」と称され、Facebookの創業期に投資したことでも知られるReid Hoffmanは、FinTech分野においても熱心な投資家として知られる人物である。
FinTech分野の中でも特に決済に対する興味は強く、Twitterに買収されたことで有名な決済インフラサービスのCardspringや、ビットコイン決済のXapoへ投資している。
・参考:クレジットカード決済に関するReid Hoffmanへのインタビュー記事
・参考:ビットコインに関するReid Hoffmanへのインタビュー記事

Paypalマフィアのドンであるピーター・ティールが立ち上げたベンチャーキャピタルであるFounders Fundは、先ほど挙げたStripe以外にも、健康保険のオンラインプラットフォームであるOscar(Disruptor 50 第43位)やビットコイン決済システムのBitPay、家計・資産管理サービスのMint、といった数多くのFinTech関連スタートアップに投資してきた。

ここに挙げたのは一例にしか過ぎない。
しかし、これだけ見てもPaypalが輩出してきた人材がいかに今日のFinTech業界で受け継がれ影響を及ぼしているか、お分かりいただけるだろう。


既存プレイヤーまでをも巻き込んだ人脈サイクル

もちろん、この人脈サイクルはPaypalをはじめとするFinTech関連スタートアップの間だけにはとどまらない。
当たり前ではあるが、大手金融機関や関連団体の出身者がFinTech業界の躍進に大きく貢献している。

Disruptor 50でFinTech関連スタートアップの中でも最高位につけたオンライン投資プローカーのMotif Investingはその最たる例だろう。
アドバイザー陣を見てみると、世界最大のオンライン証券会社E TRADEの元CMO,COO&President、マーケットメーカーとして有名なGETCO(現KCG)の元CEO、大手会計システム会社のIntuitの元CTOと、そうそうたる顔ぶれである。

オンライン投資アドバイザリーサービスのBettermentを見てみると、CEOであるJonathan Steinをはじめとし、メンバーのほとんどが投資銀行や大手金融機関などの金融業界出身者。

同じく、オンライン投資アドバイザリーサービスでDisruptor 50で第20位にも選ばれたWealthfrontを見てみると、CIOを務めているのは「ウォール街のランダム・ウォーカー」の著者で知られ、プリンストン大学経済学部長や金融大統領経済諮問委員会のメンバーを歴任した超大物のBurton Malkiel。

FinTech業界なのだから、金融業界や関連団体の出身者が多いのは当たり前だろ、と言ってしまえばそれまでだが、ここまで広く深い人脈サイクルが出来上がっているのは驚きではないか。

近年では、既存プレイヤー出身者のみならず、既存プレイヤー自身がFinTech業界に人材を送り込んでいる例も多く見られる。
投資先のボードメンバーに幹部クラスを送り込んだり、インキュベーションプログラムを立ち上げて人的支援を行ったりと、本腰を入れている様子が伺える。

もちろん、最初からそういう市場環境だったわけではないだろう。
むしろ、リーマンショック前までは、既存大手プレイヤーはFinTech関連スタートアップに目もくれていなかった。
大手金融機関は軒並み、FinTech関連スタートアップのビジネス規模など小さすぎて興味を向けるまでもない、と鷹を括っていたのだ。

しかし、リーマンショック後、既存金融システムの非効率性や矛盾が露呈。金融機関への不信感や失望が募り、多くの顧客が離れて行くことに。
早急な対応が求められたが、金融機関は自力では変わることはできなかった。リーマンショック後で企業体力が弱っていただけでなく、”Too big to change”だったのだ。
そこで、彼らが活路を求めたのが、FinTech業界なのである。
当時、リーマンショック後の既存大手プレイヤーへの不信感や失望から、FinTech関連スタートアップはむしろ多くの顧客を集め、新しい金融ソリューションとして受け入れられつつあった。

一方で、FinTech関連スタートアップも順風満帆というわけではなかった。
いくら顧客を集めつつあるとはいえ、既存大手プレイヤーと比べればやはり小さなもの。
インフラとしての金融システムにまで地位を上げていくためには、資金も信用も不十分であり、法律面でもクリアしなければならないハードルがいくつも残っていたのだ。
FinTech関連スタートアップは、それらの解決を既存大手プレイヤーに求めていくことになる。

前回の記事の最後に、海外企業のFinTech業界の躍進はベンチャー・政府・大企業の3者が一体になった取り組みによるものだと述べたが、それはこの既存プレイヤーをも巻き込んだ巨大な人脈サイクルに起因していることが見て取れるだろう。


さらに広がる人脈サイクル

FinTech業界の人脈サイクルは金融以外の業界にも広がりつつある。

ZuoraのCEO・Co-founderであるTien Tzuoは、SaaS業界出身者
・Zuoraとは、Subscription型サービス向け課金ソフトウェア・ソリューションを提供しているスタートアップであり、Disruptor 50では第11位にも選出されている
Tien TzuoはSaas業界の雄であるSalsesforceの11番目の社員であり、最高マーケティング責任者や最高戦略責任者まで昇り詰めた男である。

また、ビットコイン決済CoinbaseのCEOはAirbnb出身、投資アドバイザリーサービスWealthfrontのCEOはLinkedInやeBayを渡り歩いた男。

全てのビジネスの基盤ともなりうるFinTech業界の特徴ゆえ、金融以外の業界にも広がるこの人脈サイクルは、FinTech関連スタートアップのサービス普及スピードを加速させている一因ともいえよう。

以上、FinTech業界を「人」に注目してみてきたが、いかがだったろうか。海外のFinTech業界の躍進の背景(一因)が見て取れたかと思う。

近年、国内でも、金融業界出身がFinTech関連スタートアップを立ち上げたり、金融機関による投資・人的支援事例が増えてきたりと、人脈サイクルが出来つつあるようだ。
しかし、その人脈サイクルの広さや繋がりの深さは、まだまだ目指すレベルには足りていないのが現状である。

今の日本において、FinTech業界の躍進、政府・大企業・ベンチャーの3者を巻き込んだ新たな金融システムの創造には、まず人脈サイクルの構築から着手すべきなのかもしれない。


hayashi

ビジネスプロデューサー 林 俊助

東京大学経済学部金融学科卒業を経て、DIに参加。
DIでは、金融/通信/環境エネルギー/商社/医療/消費財などの多岐にわたる分野に対する、成長戦略及び中期経営計画策定、海外展開戦略構築、新規事業開発などに従事。近年は、ベンチャーキャピタル事業にも注力しており、国内外の金融/デジタルメディア/環境エネルギーなどの分野における投資判断、戦略策定、実行支援も経験。
中国上海市出身。


英語ページはこちら