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“FinTech”が生み出すNext Generation ~金融業界革新への挑戦~

2015.1.7

皆様は、“FinTech”という言葉を聞いたことはあるだろうか。
FinanceとTechnologyを掛け合わせた造語で、金融×IT分野で活躍するスタートアップを意味する。

日本国内だけで見ても、クラウド会計ソフトのfreee(フリー)、資産管理ツールのマネーフォワード、ソーシャルレンディングのmaneoといったFinTech関連スタートアップが台頭し、ここ2~3年でFinTechへの注目度は急上昇している。

直近では、メタップスが手数料0%のオンライン決済サービス「SPIKE」をリリースして半年あまりで4万を超える個人および法人の顧客を獲得したと発表した。
老舗である楽天やGMOペイメントゲートウェイの登録者数が、それぞれ4~5万人程度であることに鑑みると驚異的な数字だ。
(詳細は、THE BRIDGE記事を参照)

このように近年急激に注目を集めているFinTechとは一体何者なのか。今回の投稿含め、これから3回に渡り、その正体を暴いていきたいと思う。
1回目となる本稿では、まず具体的なデータや事例を用いながら、国内外のFinTech業界を俯瞰していく。


過熱するFinTech業界

アクセンチュアの業界レポートによれば、この5年の間にFinTech関連への投資額は急激に拡大している。
グローバルベースで見ると、2009年には約9.3億ドルであった投資額が、2013年には約29.7億ドルと3倍以上に拡大しているのだ。
(グローバルのFinTechへの投資額の推移*1)

グローバルのFinTechへの投資額の推移

米国のトップVC(ベンチャーキャピタル)のFinTech関連スタートアップへの投資案件数がこの5年で約4倍に増加しているのを見ても、FinTech業界の過熱ぶりは誰の目にも明らかであろう。
(米国トップVC12社のFinTechへの投資案件数合計の推移*2)

米国トップVC12社のFinTechへの投資案件数合計の推移

この流れの中で、世界中でFinTechに特化したベンチャーキャピタルやファンドまでもが登場してきた。以下はその一部例である。
・FinTech Innovation Lab:アクセンチュアがロンドン・ニューヨーク・香港の3都市で主催するインキュベーションプログラム
・Green Visor Capital:FinTechの中でもアーリーステージに特化したベンチャーキャピタル
・Arbor Venture:FinTechの中でもアジア地域に特化したベンチャーキャピタル
国内でもマネックスグループがコーポレートベンチャーキャピタル事業を強化し、Fintech関連のスタートアップへの投資を加速しようとする動きは皆様の記憶にも新しいと思う。

そして、驚くことに、この流れは既存プレイヤーの間にまで広がっている。
Barclays Capitalは、米国有名VCであるTechstarsと組んでFinTech特化のインキュベーションプログラムであるBarclays Acceleratorを立ち上げ、JPMorgan Chaseは、FinTech Innovation Labとパートナーシップを結んだ。
この他にも、BBVAやHSBC、Santander、Sberbank等が独自の投資ファンドを組成し、Goldman Sachs、Citibank、VISA、Amex等はFintech関連スタートアップへの投資を活発に行っている。
(詳細は、Banks Playing Larger Role in 2014 FinTech FundingBanks Lure Fintech Startups With Venture Fundsを参照)

このように、既存プレイヤーまでをも巻き込んで過熱する「FinTech」とは一体何者なのか。


既存プレイヤーを「Disrupt」するFinTech

先日のNext Generationでもご紹介した「Disruptor 50」を覚えているだろうか。
2013年から毎年CNBCが企画・発表しているリストであり、未来を創るスタートアップが50社選定されている。
(関連情報は、こちらの記事を参照)
実は、このDisruptor 50を見ると、FinTechの正体を垣間見ることができる。

まずは2014年のDisruptor 50のリストからFinTech関連スタートアップをピックアップして見てみよう。
・4位:Motif Investing(オンライン投資ブローカー)
・11位:Zuora(Subscription型サービス向け課金ソフトウェア・ソリューション)
・15位:Stripe(オンライン決済システム)
・16位:TransferWise(個人間海外送金サービス)
・17位:Personal Capital(富裕層向け投資管理・アドバイザリーサービス)
・20位:Wealthfront(投資アドバイザリーサービス)
・26位:AngelList(スタートアップと投資家、就職希望者を繋ぐプラットフォーム)
・33位:Lending Club(P2Pレンディングプラットフォーム)
・35位:Coinbase(ビットコイン専用の決済サービス)
・43位:Oscar(健康保険のオンラインプラットフォーム)
・45位:Betterment(投資アドバイザリーサービス)
・49位:Kickstarter(クラウドファンディングプラットフォーム)
合計12社のFinTech関連スタートアップがDisruptorとして認定されている。

ここでお気づきの方もいるだろう。
毎年50社しか選定されないこのリストの、実に4分の1をFinTech関連スタートアップが占めているのだ。
2013年のリストでは6社しか選定されていなかったことも含めて考えると、FinTechのプレゼンスが急上昇しているのが見てとれるだろう。
・ちなみに、2013年にリストアップされたFinTech関連スタートアップは、モバイル決済で一躍有名になったBokuやSquareが名を連ねている。

では、これらのスタートアップが、どのように既存ビジネスをDisruptして、どのような新しい未来を創ろうとしているのか見ていこう。

① 投資信託ビジネスをDisruptするスタートアップ
Motif Investing(4位)は、投資信託ビジネスをDisruptするスタートアップの最も顕著な例であろう。
テーマごとに設定されたポートフォリオをベースに、個人が自由にカスタマイズして投資することができる圧倒的な手軽さを有し、その手数料は取引額に関わらず一律9.95ドルと破格の安さである。
これによって、個人が手軽&安価に投資ポートフォリオの組成が可能になる。
(Motif Investingの使用画面イメージ*3)

Motif Investingの使用画面イメージ

Personal Capital(17位)やWealthfront(20位)、Betterment(45位)のような投資アドバイザリーサービスも見逃せない。
いずれも、既存プレイヤーに比べて、圧倒的に手軽&安価な手数料で資産管理・アドバイザリーサービスを提供し、支持を得ている。
例えば、Personal Capitalは創業5年で既に50万人以上のユーザーを獲得し、Wealthfrontも創業3年で運用総額1500億円を超える規模に成長した。

2000年頃の証券営業における中立性問題や2008年のリーマンショックが引き起こした従来の金融機関への不信感や失望から、このような新たなスタイルの金融サービスが支持され始めたと言えよう。

② 決済サービスをDisruptするスタートアップ
皆様もご存知のように決済サービスの雄と言えばPaypalであるが、Stripe(15位)はこのPaypalを超える可能性を秘めたオンライン決済サービスである。
決済システムを導入したいアプリやプログラムにソースコードを貼り付けるだけで利用できるようになるサービスであり、決済のたびに顧客をわざわざ他の決済専用ページに飛ばす必要がなくなる。
手数料(決済額の2.9%+30円 ※1ドル100円換算時)も、Paypalの手数料(決済額の3.6%+40円+初期コスト)と比較しても安価なのだ。
Paypalが築き上げた決済の一時代が今まさに取って代わられようとしている。

また、現金やクレジットカードというシステム自体を取って代わろうとするプレイヤーさえ登場してきた。
Coinbase(35位)がそれで、ビットコイン(仮想通貨)という新しい通貨でのオンライン決済を可能にするサービスを提供している。
ビットコイン自体の普及にはまだまだ時間がかかりそうだが、伝統的銀行や信用システムに対する優位性は否定できない。

③ 消費者金融をDisruptするスタートアップ
個人がお金を借りる時、これまでは消費者金融や銀行、クレジットカードのキャッシング等が主流で、金利は10数%前後は取られるのが一般的。
しかし、銀行にお金を預けて得られる金利は1%以下であり、その差分が銀行の取り分となり、実は大変な鞘抜きが行われてきた。
Lending Club(33位)は、このブラックボックスを一新し、借り手にはより安い金利で借りる機会、貸し手にはより高い金利で貸す機会を提供しています。
つまり、オンラインで個人間の資金需給のマッチングを行っているのです。
直近では、このLending Clubが近くニューヨーク証券取引所に上場するというニュースも出ており、FinTech業界の中でも一番の注目株なのだ。

④ ベンチャーキャピタルをDisruptするスタートアップ
スタートアップを支援するはずのベンチャーキャピタルをDisruptしてしまうようなスタートアップまでもが登場してきた。なんとも皮肉な話ではある。
Angel List(26位)は、スタートアップと投資家を繋げるオンラインプラットフォームである。
スタートアップの情報を一手に集めて公開しているCrunchBaseと一見同じような機能を持ったサイトなのだが、Fintechとしての大きな違いは、適格投資家(Accredited Investor)として認定されれば個人がAngel Listを通じてスタートアップに投資できることにある。SEC・米国議会のお墨付きを得ており、行政府と立法府がDisruptを推奨しているとも言える。投資額・募集額等の制限は一切なく、相対投資が可能になったのだ。

※適格投資家(Accredited Investor)とは、個人年収2千万円以上または世帯年収3千万円以上または資産1億円以上(不動産除く)を保有する個人のことを指す。正確な最新情報は、SECホームページを参照

スタートアップにとっても、非常に面倒な投資家探しも必要なくなり、効率のよい資金調達が可能になるというインセンティブが働き、現在はスタートアップが必ず登録するといっていいほどのサイトにまで成長した。
Angel Listはヒト・モノ・カネの情報を公開することで、資金調達同様に、人材紹介も行っている今後も目が離せないスタートアップである。

どうだろう。FinTechがいかに世界をDisruptし新しい未来を創り上げようとしているか伝わっただろうか。
上記で紹介させて頂いたスタートアップ以外にも、FinTech業界ではここ数年で次から次へと新しいスタートアップが誕生しては、既存プレイヤーを脅かしている。

(参考:FinTech業界の業界地図*4)

参考:FinTech業界の業界地図


FinTech業界において日本発のDisruptorを生みだすためには

ここで、日本に視点を移してみよう。
日本でも実はFinTech関連スタートアップがここ数年で増加してきている。
(国内のFinTech業界の業界地図*5)

国内のFinTech業界の業界地図

クラウド会計サービスのfreee(フリー)や、企業・業界データベースSPEEDAを運営するユーザベース、資産管理サービスのマネーフォワードなど、皆様既にご存知の方も多いかと思う。

では、これら日本発のFinTech関連スタートアップがDisruptorになるためにはどうすればよいか。

世界第3位の経済大国、高いITリテラシー、先進的な金融システム、どれをとってもFinTech関連のイノベーションが生まれやすい土壌は十分にあるといえよう。
実際、上記のようにあらゆる金融分野でFinTech関連スタートアップは登場しており、彼らへのニーズも急速に高まっている。

しかし、FinTech業界においてDisruptorに成長するためには、まだ足りていない要素があると筆者はあえて提言したい。
その要素は、FinTech関連スタートアップが生み出すイノベーションが、社会インフラとしての金融システムに取り込まれていくための、政府・大企業を巻き込んだ「エコシステム」の確立である。

社会インフラとしての金融システムに成長させていくためには、法律・資金・信用の3つの要素は不可欠であり、金融とそれ以外の分野の大きな違いである。
しかし、スタートアップがその3つの要素を自力で獲得するのは非常に困難。

米国のFinTech業界を見ると、実は政府・大企業が重要な一翼を担っているといえる。
政府は金融規制の緩和に取り組み、金融機関は資金的・人的支援の主体となっているのだ。

例えば、先ほど紹介したAngel Listのネット上での個人投資家によるベンチャー投資サービスを可能にしたのは、政府による規制緩和(JOBS法の成立)であった。
日本では同じサービスを生み出したくとも、実は法規制によりできない環境にあるのだ。

また、Motif Investingを見てみると、投資家にはGoldman Sachs、JPMorgan Chaseと大手金融機関が名を連ねており、アドバイザリーメンバーにはそれらの幹部クラスが名を連ねている。
日本では、まだまだ大手金融機関が積極的にFinTech関連スタートアップへの投資に力を入れていると言える状況ではない。

各国法規制が異なることから、多くのFinTech関連スタートアップは実は今のところまだローカルプレイヤーである。
ただ、FinTech以外の分野ではUberのように国を超えて既存の規制と戦っているプレイヤーもどんどん登場している中、今後、FinTech関連スタートアップが、グローバル化していくのも時間の問題かもしれない。
実際、上記で紹介したAngel Listはイギリスやカナダに進出しつつあり、さらなるグローバル展開も視野に入れている。

その時、政府・大企業を味方につけた彼らの交渉力・展開力は半端ではないだろう。
そして、日本のFinTech業界の実状を見たときに、彼らと戦っていくことになるであろう将来に一抹の不安を覚えるのは筆者だけだろうか。

DIでは、政府・大企業・ベンチャーの3者を巻き込み、これまで様々な産業・事業の創造に貢献してきた(詳細は、DI事業概要ページを参照)。

日本のFinTech業界についても、上述した課題解決の一助となるべく、DIでは現在政府・大企業を巻き込みながら様々な取り組みにチャレンジしている。
FinTech業界において日本発のDisruptorを生み出すべく駆け回っている我々の活動に、今後ともぜひ注目していただきたい。


*1 「The Boom in Global Fintech Investment」 Accenture
*2 CB Insights調べ
*3 Motif Investing社ホームページ
*4 Venture Scanner調べ
*5 Goodfind調べ


林 俊助

ビジネスプロデューサー 林 俊助

東京大学経済学部金融学科を経て、DIに参加。
DIでは、金融/通信/環境エネルギー/商社/医療/消費財などの多岐にわたる分野に対する、成長戦略及び中期経営計画策定、海外展開戦略構築、新規事業開発などに従事。
近年は、ベンチャーキャピタル事業にも注力しており、国内外の金融/デジタルメディア/環境エネルギーなどの分野における投資判断、戦略策定、実行支援にも従事。
中国上海市出身。


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