ビジネスプロデューサー列伝

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「月刊 碁ワールド」連載中(5月20日更新)

2015.5.20
hirose【広瀬道明氏 プロフィール】
1974年早稲田大学政治経済学部卒業後、東京ガス入社。
2009年取締役常務執行役員就任、2012年副社長。
2014年より代表取締役 社長執行役員。
東京都出身。

規制緩和による競争激化が予想されるエネルギー業界。電力事業の拡大・海外展開の加速など積極的な攻めを見せる東京ガス。昨年、代表取締役社長に就任した広瀬道明氏。愛棋家である広瀬氏の、囲碁にまつわるお話を伺った。


― 囲碁との出会いを教えていただけますか?

小学生の時に父親から教えてもらいました。 今思えば父親はそれほど強くなかったとは思いますが、とても囲碁が好きで「青春時代は徹夜で打っていた」とよく言っていました。
父親と息子というのはある年齢になると会話しなくなるものですが、盤上で心を通わせていたのだと思います。どちらからともなく「やろうか」ということになりよく勝負していました。ちなみに、碁盤と碁石を持ってくるのは、息子である私の役割でした。
途中から私のほうが強くなって父親に勝つようになってからも、嬉しそうに打っていました。私も親孝行しているような気持ちになりましたね。

― とてもいいお話ですね。これをきっかけに打つのが好きになるのですね?

実は、対局という意味での囲碁との接点は父親としかなく、もっぱら本やテレビで囲碁に接していました。実際、社長に就任してから趣味が囲碁ということを言いましたら、社内がびっくりしておりました。
ただ、数年前、三菱商事エネルギー部門CEOの加藤晴二様(当時)と懇親した際に囲碁の話で盛り上がり、2、3回打ちました。その後、加藤様を通じて、稲葉禄子様をご紹介いただき、稲葉様が経営されるサロンに入会して、インストラクターの方と打つようになりました。それが2年ほど続きましたが、社長になってからはご無沙汰しています。

― 棋書やテレビをご覧になるのが好きなのですね。

囲碁の本はいつも周りにおいてあります。定石や詰碁もたまには読みますけれども、特に「次の一手」が好きですね。夜読んで興奮して眠られなくなることもあります(笑)。ちなみに、入浴中でも読みますし、出張中や旅行中でももって行き、飛行機やホテルで見ています(笑)。

― 囲碁の魅力はどこにあるのでしょうか?

奥深さが魅力です。実は最初の頃は、将棋ばかり指していたのですが、囲碁の奥深さに引き込まれました。そして、その奥深さはビジネスとも共通するところがあるように思っています。

まず1つにバランス感覚・大局観・構想力が求められることです。囲碁は、全体と部分、攻めと守り、地と厚みなど、全てにバランスが求められます。
ビジネスも同様で、構想を描き、ちゃんと「厚み」をつくり将来への投資をしつつ、収益という「地」もとらなくてはいけません。特に、我々が属しているエネルギー業界は「激動の時代、未知の世界」に入ったと言われていますが、特に未知の世界では、大局観、構想力が求められると思っています。

次に、形・筋が問われるということです。囲碁では、形が悪ければ後で必ずそのツケが来ます。筋の良くない手、間に合わせの手は後でかならずしっぺ返しをくらいます。今社内で「フォーメーション」と言っていますが、これはまず良い形を整えようということです。そして、これが経営者の仕事だと思っています。弊社の社員の皆さんはとても優秀ですので、いい形が整えば、とてもいい仕事をしてくださります。 
また、具体的な仕事でも筋のいい仕事をしようと言っています。安直な事、無理な事は禍根を残します。 遠回りに見えても筋を通したほうが、いい結果に繋がります。従って、新しい施策に関して、当然集められる情報はなるべく多く集めて、考え抜くわけですが、大枠で筋がいいかどうかを重視するようにしています。細かい数字だけを見ていては、全体の筋はわからないものです。

最後に岡目八目です。
一般的に違う視点・冷静な目で鳥瞰的に見ると良い考えが浮かぶという意味で使われますが、一方で当事者でなく、無責任に好きなことが言えるとも解釈できます。つまり、冷静な目・鳥瞰的な見方・違った視点を心がけることが重要である、ということと、傍観者をいかに少なくして当事者を増やすか、ということを教えてくれる「岡目八目」。意味深長な考え方だと思います。

― 特に構想・形・筋に注目されているように思いましたが。

囲碁でも構想を練って形にするような序盤が好きなのですが、社内でもそのように形を作ることを私の役割として考えています。
例えば、海外拠点の設計についても短期的に利益を出さなくていいから、私達のノウハウ・知見を活かして現地に貢献して行くようにと言っています。
経営とは「旗を立て、組織を作って、人を入れて、背中を押して、ほめて感謝する」という一連の行動で成立しています。組織の形を整えれば、社員は成果を出してくれると信じています。

― 確かに形が悪いと囲碁でも挽回は難しいですものね。では、最後に囲碁を始める人へのメッセージをお願いいたします。

最初はとっつきにくいゲームだと思いますが、とても奥が深いので、しばらくは我慢して続けてみてください。本当にのめりこむと思います。

― ありがとうございました。

聞き手
株式会社ドリームインキュンベータ
ビジネスプロデューサー 大津留 博文