【第3回】Botの時代は、新たな戦いの幕開け

Category: Column
2016.05.23

第1回、第2回を通して、アプリからBotの時代へと変化が起こっていること、またなぜその変化がおこっているのか、ITの歴史を振り返りながら見てきた。

最終回となる本稿では、Botの時代とともに、どんな新しいサービスが生まれてきているのか、メッセンジャー × Botの最新事例、そしてそれに付随して登場してきた各種サービスを紹介しながら、新たな時代にどのような戦いが繰り広げられているのか、見ていきたいと思う。

 

■メッセンジャー × Botサービスの最新事例

まずはF8で披露された、ショッピングアプリであるSpringのBotを紹介しよう。

Botに「Go Shopping」とメッセージを打ち込むと、「Hey Rachel! What are you looking for today?」と返信があり、洋服のカテゴリが選択肢として表示される。その後はBotの案内にしたがってジャンルや予算等を選択していくと、条件に合った商品が画像と共に自動で表示される仕組みだ。

Spring

出所http://www.forbes.com/sites/rachelarthur/2016/04/12/shopping-start-up-spring-launches-one-of-first-bots-on-facebook-messenger/#e4b60634ee7e

 

ここで「購入する」をクリックすると、SPRINGのモバイルサイトへと移動し、実際に購入することができる。残念ながら、現状では「Go Shopping」以外のメッセージでは適切な応答が返ってこないが、これらは今後改良されていくだろう。

 

SPRINGはB2Cの事例だが、ここではもう一つB2Bの事例を紹介しておきたいと思う。

Botとの会話を通して、Facebook等のネット広告管理が行えるKit CRMというサービスだ。

 

詳細は動画(https://vimeo.com/116780056)を見て頂きたいが、外部の広告配信システムと連携し、Botからの質問に返答していくだけで、広告の配信、予算管理等が可能になっており、ユーザーはPCの管理画面や、管理アプリを開くことなく、すべてメッセンジャー上で完結することができる。

ちなみに、Kik CRMは4月13日にテスラモータースやレッドブルが利用する世界最大級のECプラットフォームであるShopifyに買収されている。またShopifyは同月12日にFacebook メッセンジャー向けのBotの提供も発表しており、ここでもメッセンジャー×Botという会話型のサービス提供へ移行する動きが見られる。

 

二つの事例を通じて注目して頂きたいのは、どちらも従来アプリ(もしくはウェブ)で提供されていたサービスが、メッセンジャー上で実現されている点だ。今はまだ、機能的に不十分な点も見受けられるものの、将来的にはアプリ上で行っていたサービスは全て、Botを介してメッセンジャー上で完結する世界になっていくだろう。

 

また、Bot化が進むにつれて、コミュニケーションの形もテキストベースなものから、よりリッチな情報を含むカード形式に代わりつつある。

単純な会話なら、テキストでの返答で事足りるが、Botが提供する情報が旅行やイベント情報など複雑化してくるとテキスト量が膨大になり、伝わりづらい。そこで登場するのが、GoogleやFacebookが採用しているカード形式でのリッチな情報提供だ。

カード形式でのリッチな情報提供

出所http://venturebeat.com/2016/04/17/linkedins-newest-app-helps-college-grads-find-a-job/

 

上図左はGoogleで「flights from SF to LA」と検索した場合の検索結果、右はGoogle now でフライトチケットを表示させたものだ。どちらも単純なテキストではなく、よりユーザーが理解しやすいカード形式で情報提供を行っていることがわかる。上述のFacebookメッセンジャーにおけるSPRING Botの例でも、同様にカード形式の商品情報をカルーセルで表示させていた。

 

ただし、GoogleやFacebookが提供しているカード形式も、まだリッチな情報提供に最適化されているとはいい難い。

そんな中、カード形式のコミュニケーションにおいて、現在世界のトップランナーの1つが、シリコンバレーのスタートアップであるWrap Mediaだ。創業者は過去にIPOを2度経験した(どちらも1000億円規模)シリコンバレーの伝説的シリアルアントレプレナー、Eric Greenberg。投資家もSalesforceやピーター・ティールが率いるFounders Fundなど超一流投資家が揃っており、今注目のスタートアップだ。

Wrap Media

Wrap社が提供しているのは、(アプリではなく)ウェブブラウザ上で動作するカード形式のコンテンツ制作サービスである。カード上に商品情報、動画、購入ボタンなどを設置することができ、カード内で決済まで完結できる。

Wrap

https://wrap.co/wraps/c2a480be-a3f6-4a41-8c51-54a3f09cbc81

 

触っていただくとすぐにお判りいただけるかと思うが、ブラウザベースでありながら、アプリと同じ感覚でスワイプ、スクロールしてカードを閲覧できるため、リッチな情報コンテンツの中で、閲覧やクリックなどのアクションを促しやすい。Botがコンテンツを提供するツールとしては最適だ。もちろんWrapのAPIを介して個別にカスタマイズしたコンテンツを提供することもできる。

 

メッセンジャー、Botが普及するにつれ、各プレイヤーはこうした新たなコミュニケーション方式も取り入れていくことで、現存のアプリを全て置きかえてしまう可能性がある。

 

■繰り返される“囲い込み”と“解放”

メッセンジャー × Bot がアプリを代替するというこの波は、C2C、B2Cだけにとどまらず、Kit CRMのようなB2Bサービスの世界にも確実に押し寄せてくるだろう。

 

こうした変化が進むことは、アプリの利用者が減少し、これまで覇権を握っていたAppleが、必ずしも盤石でないことを示唆している。実際のところ、Botへの変化の波にAppleはついて来られておらず、Facebook, LINE等メッセンジャーアプリの大手プレイヤーへと覇権が移りつつある。

 

しかし、メッセンジャーアプリ大手が、全てを握ってしまうかというと、そうは言いきれない。Microsoftはメッセンジャーではなく、Botにフォーカスして、Botの市場を支配しようとしている。

今年3月、MicrosoftはBot開発用フレームワークの無償提供を開始。このフレームワークを使えば、Skype, LINE, Slackなど主要なメッセンジャー内で利用可能なBotを開発することができる。彼らはどうやら、Botの開発を促し、そのBotを囲い込むことで、Apple Storeに代わるBot Storeを生み出そうとしているようだ。

 

Bot Store

出所http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1603/31/news063.html

 

Bot Storeというのは文字通り、Botのマーケットプレースだ。例えば、洋服が買いたいなら、Bot Store から洋服をおすすめしてくれるBotを選択してメッセンジャーにいれておけば、いつでもそのBotとチャットするだけで洋服が買えるというわけだ。

 

メッセンジャー企業の中には、すでにBot Storeを提供している企業も存在する。アメリカのティーンネージャーに人気の高いKikや、企業内コミュニケーションツールのSlackがその例だ。

メッセンジャーとは別に、Bot市場の覇権争いも激しい。

 

また大手メッセンジャーのプラットフォーム独占に一石を投じている企業もある。

iOS、Android、Webアプリに組み込めるチャットUIのSDKを提供しているLayerだ。

 

Layer

彼らはFacebook メッセンジャー、LINEなど大手のプラットフォームに依存してしまうことに警鐘をならしている。大手に依存してしまえば、データを全て取れてしまうし、何かシステムに変更があれば従わざるをえず、サービスの質を落とすことにつながりかねない。とはいえ、自社で一からチャットシステムを開発し、運用するのは難しい。

 

そこでLayerの登場だ。Layerのサービスを使えば、たった数行のコードで、誰でも簡単にFacebookメッセンジャーレベルのチャットシステムを自社サービスに組み込むことができる。

しかもFacebookメッセンジャーのように単一のUIではなく、自由にカスタマイズ可能だ。

Layerのチャットサンプル

Layerのチャットサンプル
(B2B&B2Cコマース、マーケットプレース、ゲームなど、様々な業種のウェブ/モバイルアプリへ適用可能)

 

すでにLayerは、アドバイザーが洋服を選んでくれるTrunk Clubや、デートアプリのHingeのチャットシステムとして採用されている。

 

以上、色々と紹介してきたが、アプリがメッセンジャーとBotに置き換わっていく中で、各プレイヤー間の覇権争いが激化している状況がイメージできただろうか。

 

誰もがユーザーを囲い込み、自社の牙城を築こうと必死になっているのだ。

 

過去を振り返れば、こうした囲い込みに成功してきたサービスはいくつもある、古くはWindowsから、i-mode、モバゲー、そしてiOSなどだ。しかし、その囲い込みも永遠には続いてこなかった、必ず囲い込みを破る新たなプレイヤーが現れ、ユーザーを解放してきたのだ。

そしてAppleの牙城が崩れかかっている今、新たな解放の時が訪れているといえるだろう。上記の企業達は皆、この機会を逃すまいと動き出している。

 

考えて頂きたいのは、こうした激変が起こっている中、日本企業はうまく適応できるだろうかということである。これまで通りアプリをつくっているだけでは、すぐにBotに置きかえられて、消えてしまうかもしれない。

 

Layerのようなサービスを利用したメッセンジャーの取り込み、自社サービスのBot開発など、日本企業も、この激変の中を生き抜く工夫をしていく必要に迫られているのではないだろうか。

 


ビジネスプロデューサー 中野 裕士ビジネスプロデューサー 中野 裕士

東京工業大学工学部卒業
同大学院理工学研究科電子物理工学専攻修了
株式会社じげんを経て、DIに参加

株式会社じげんでは、ベトナム子会社を立ち上げ、代表取締役社長に就任。現地では50名規模のオフショア開発、および現地向けウェブサービス事業を展開し、事業戦略策定、マーケティング、人材採用/育成等幅広い業務に従事

DIでは、投資先であるWrap Media等、海外投資先におけるアジア展開の中心的メンバーとして、成長戦略及び事業展開戦略、実行支援などに取り組む。また国内では、製造業の新規事業戦略策定、消費財メーカーのブランド戦略などのコンサルティング業務に従事。

 

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