【第1回】メッセンジャー × Botの登場でアプリが消える?
C-3PO: あのドロイドにはきっと満足なされます。彼は本当に極上の状態でして、以前一緒に働いておりました。
ルーク:わかったよ、あいつにしよう
(映画スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望の一節より)
上記の会話は映画スター・ウォーズで、ロボットのC-3POが主人公のルークにどのロボットが良いかおすすめしているシーン。
困ったことがあれば、ロボットに話しかけるだけで、なんでも答えが帰ってくる。そんな映画のような世界、まだまだ先の話だと思っていないだろうか?
実はそんな世界がすぐにやってくるかもしれない、しかもそれはロボットという大掛かりな形ではなく、あなたがいつも使っている、そのスマホの中で。
こちらの写真、見たことある方はいるだろうか。2016年4月14日、サンフランシスコで開催されたデベロッパー向けカンファレンスF8の一場面だ。Facebookはこのカンファレンスで、Facebookメッセンジャー上でユーザーと会話するBot(ボット)開発ツールの無償提供を発表した。
実はこれが、映画の未来を実現する大きな一歩なのだ。
このメッセンジャー、Botという二つのキーワード、今年に入ってからよく耳にするという方も多いのではないだろうか。Facebookを始めとし、今世界中でメッセンジャー × Botという流れが加速している。
イメージを持っていただくために概要を説明すると、メッセンジャー上でBotと呼ばれる自動応答システムとメッセージをやり取りするだけで、商品購入や予約などのサービスなどが利用可能になるのだ。
簡単なBotの仕組みならすでに日本でもいくつか事例がある。ドミノ・ピザが昨年9月からLINE上で実施している “ドミノ簡単注文“もその一つだ。下記イメージのように、”ピザ注文”というメッセージを送ると、自動でピザ注文用のURLが表示され、LINE上からピザが注文できる。
ピザ注文は一例だが、服の購入や、航空券の予約まであらゆるサービスがメッセンジャー上で受けることができるようになったらどうだろうか。例えばBotに、「来週水曜にサンフランシスコの出張が入ったから、フライトの予約をしておいて」とメッセージを送るだけで、予約が完了し、電子チケットもメッセンジャー上で確認できる。いちいちスマホでアプリ(あるいはウェブサイト)を開く必要はなくなり、すべてメッセンジャーにいるBotとのやりとりで完結することになる。
そう、メッセンジャーとボットの組み合わせは、現在アプリが担っている機能を全て代替し、アプリを消し去ってしまう可能性を秘めているのだ。
本連載では、ITの歴史を紐解きながら、3回に渡りメッセンジャー× Botが形づくる新たな未来について、考察していきたいと思う。
■そもそもメッセンジャー、Botとは何か
メッセンジャーというのは、LINEやスカイプなどのチャットツールのことだ。読者の皆さんも何らかのメッセンジャーを日頃から利用しているのではないだろうか。
日本では、LINE のシェアが最も大きく、人口の46%が利用、アクティブ率も70%とかなり高い。
もはや生活に必須のインフラと化している。
では世界はどうなっているか? 下図を見ていただきたい。主要メッセンジャーアプリのアクティブユーザー数比較である。QQ mobile, WeChatは中国での利用が主なので(どちらもテンセントが運営)、世界的に見るとWhatsApp, Facebook メッセンジャーが2強であり、どちらも8億人以上のユーザーを抱えている。またWhatsAppは2014年にFacebookに買収されているため、企業別でみるとFacebook1強のような状態だ。
主要メッセンジャーの月間アクティブユーザー数(2016年1月)
またアクティブユーザー数が非公開なため上記に含まれていないが、アメリカのティーンネージャーの40%が利用していると言われているKikも主要なサービスの一つだ。特にKikはいち早くBotの導入を開始し、潮流の最先端にいる。
企業向けのチャットツールChatwork, Hipchat, Slack等もメッセンジャーの一つだ。中でもSlackは今年4月に2億ドルを調達しており、ユーザー数が前年比3.5倍と勢いに乗っている。 (2016年4月1日のアクティブユーザー:270万人)
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ここで各メッセンジャーのBotへの取り組みに関して述べておくと、上記メッセンジャーの中で、Facebook、Skype、LINE 、Kik、Slack、HipChatの6社がBot導入に取り組んでいる。この数からもBotの波が来ていることがわかるだろう。
それでは次に、Botの仕組みについて紹介しよう。Botは簡単に言えば、自動応答システムである。
下記はLINE Botの例だが、ユーザーが何かメッセージを送信すると、LINEが提供しているBOT APIを介してサービス提供企業のシステムに接続、システム内でメッセージを解析して自動でユーザーに返答を返す。このように、人間に代わって自動で応答するシステムのことを総称して“BOT” と呼ぶ。
LINE BOT APIの仕組み
下図は2014年7月、株式会社リクルートジョブズと株式会社リクルートテクノロジーズが自然言語処理技術を用いて開発したLINE公式アカウント「パン田一郎」Botである。Botと会話をすることで、天気や、バイトの求人情報を探すことができる。
LINE公式Bot「パン田一郎」の応答例
ちなみに、LINEは2014年からBot開発可能なAPIを企業向けに提供していたが、(“LINEビジネスコネクト”と呼ばれるサービス)、今年4月7日、企業だけでなく、個人にもBot APIを無料公開した。ただし、今回はTrialのため1万人限定の公開となっており、今夏に正式な一般公開を予定している。
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以上、まずは簡単にメッセンジャー、Botについて解説したが、具体的なイメージを持っていただけただろうか。ここで紹介したのは、あくまで過去に特定の企業が公開していたBotの例だが、Facebook, LINEのBot API一般開放に伴い、一気にBotの数が増え、より自然なメッセージのやり取りで、より多くのサービス提供ができるようになってくると思われる。
次稿では、なぜこのような変化がおこっているのか、ITの歴史を振り返りながら、その根源的な理由を明らかにしていきたい。
ビジネスプロデューサー 中野 裕士
東京工業大学工学部卒業
同大学院理工学研究科電子物理工学専攻修了
株式会社じげんを経て、DIに参加
株式会社じげんでは、ベトナム子会社を立ち上げ、代表取締役社長に就任。現地では50名規模のオフショア開発、および現地向けウェブサービス事業を展開し、事業戦略策定、マーケティング、人材採用/育成等幅広い業務に従事
DIでは、投資先であるWrap Media等、海外投資先におけるアジア展開の中心的メンバーとして、成長戦略及び事業展開戦略、実行支援などに取り組む。また国内では、製造業の新規事業戦略策定、消費財メーカーのブランド戦略などのコンサルティング業務に従事。