ASIA 中国市場「7つの真実」

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第14回 ⑦北米市場をも捉え始めた「中国発イノベーション」の潮流(前編)

DI上海 板谷俊輔 Legend Capital 朴焌成 (Joon Sung Park) 2015.1.8

第14回: ケーススタディ ⑦Zepp(ウェアラブルデバイス)(前編)

これまでの6テーマに亘るケーススタディでは、あくまで「中国市場を主戦場」としつつ、何らかの特徴ある切り口で、大きく飛躍を遂げてきた「現地有力企業」をフォーカスして参りました。

それらのうち、少なくない企業は、中国市場の洗礼を経て得られた「新たなビジネスモデル」を、
・下流市場である東南アジアに
・あるいは、上流市場である欧米市場にも (リバースイノベーションという形で)
輸出しようとしています。

こうした中、最後のケーススタディとなる7テーマ目として、あえて取り上げたいのが、
「中国企業でありながら、”当初から” グローバル(北米)をターゲットに事業展開」
を行っているZepp社です。

ゴルフ・テニス・野球といった、「スポーツ向けのウェアラブルデバイス」を手がけるZepp社は、「中国人が中国で創業した会社」でありながら、設立5年目にして、
・カルフォルニアに本社を構え、
・30万人を超えるユーザーのうち90%以上が欧米エリア (⇔中国は1%程度)
という驚くべきグローバル化を果たしています。

ビジネスモデルイノベーションに加え、いよいよテクノロジー自体でも、中国が発信地となりうる時代が訪れようとしているのでしょうか?

Zepp社のバックグラウンドと共に、「中国発イノベーションの潮流」とその背景についても、考察して参ります。

 ZEPP

 


「グローバル」×「異種格闘技」の様相を呈する、ウェアラブルデバイス市場

DI 板谷:7社目となるケーススタディは、ウェアラブルデバイスのZepp社です。

LC 朴:Zepp社は「中国人が創業した中国企業」でありながら、当初から北米市場をターゲットに事業展開をしている、テクノロジー企業になります。

DI 板谷:中国発のイノベーションが、どのようにして生まれ、どのようにしてグローバル市場に浸透しうるのか?
非常に興味深いケーススタディとなりそうですね。

そこで、まず、Zepp社の立脚する「ウェアラブルデバイス」の市場について、中には馴染みの薄い読者の方もいらっしゃるかと思いますので、簡単に俯瞰してみたいと思います。

LC 朴:DIさんも、DI Technologyグループや、最近発足したロボティクスグループなど、このあたりのテクノロジー領域にはフォーカスされているようですね。

DI 板谷:本当は彼らDI社内専門家に語ってもらうのが良いかと思いますが、掘り下げていくと、本テーマだけで連載が1つ完成してしまいそうです(笑)。ですので、今回は私の方で手短に、さらってみたいと思います。

まず、”ウェアラブル”とは、シンプルに言うと
「技術進化(≒実装密度の増加)が、潜在ニーズ(≒主には小型化)に結びついたもの」
と捉えることが出来るようです。

PCで言うと、「デスクトップPC → ノートPC →スマホ → リストバンド・メガネ → ・・・」と言ったようにです。【別表の縦のライン】

そして、ベースとなる機能がどの程度の汎用性を持つかによって、”ウェアラブル”のコンセプトにも幅があります。【別表の横のライン】

  • 特定機能の移行・実現を目的とした「①高付加価値センサ型」
    ➢ ヘルスケア、スポーツ、見守り、ライフログ、・・・
    ➢ 既に盛り上がりを見せつつあり、どれだけ特定のクリティカルなニーズに訴求出来るかがポイント
  • 複数~汎用機能の移行・実現を目的とした「②スマホ周辺機器型」「③スマホ代替型」
    ➢ ポテンシャルは大きいが、本当にスマホ代替が実現するには、5年スパンで時間を要する見通し

非常に簡単に申し上げると、こういった形でしょうか。

ウェアラブルデバイス市場の全体像(ラフイメージ)

ウェアラブルデバイス市場の全体像(ラフイメージ)


 

スポーツ関連の巨大市場をdisruptせよ

LC 朴:非常に明快な説明をありがとうございます。
この中で、Zepp社は、まさしく「①高付加価値センサ」の市場に、「スポーツ」という特化軸で、切り込んでいることになります。

DI 板谷:現時点でZeppが展開しているのは、ゴルフ/テニス/野球・ソフトボールの3球技のセンサです。

LC 朴:はい。ユーザーはどの競技でも、ゴルフクラブ、テニスラケット、野球バットに付けたセンサでスイングデータを収集します。

そして、bluetooth接続したスマホ上でデータの送受信・解析を行うことで、自身の技術向上に役立てることが出来るのです。

DI 板谷:なるほど。例えばゴルフだと、
・スイングの「スピード」と「平面角度」、「腰の回転」から
・「バックスイングの位置」と「バックスイングとダウンスイングのテンポ配分」まで、
様々なデータを収集可能とあります。

LC 朴:しかも、自身のデータがサーバー上に蓄積されるのは勿論のこと、プロの映像・スイングデータとの対比も可能です。

DI 板谷:なかなか本格的ですね。

ここまで世界中の人々が「つながり」出すと、プロとの対比と言わず、どういった水準の人が、どういった過ちを犯しがちか、ユーザーデータに基づく分析も可能になってきそうですね。

LC 朴:まさにその通りです。現にゴルフでは、全世界で既に「2,300万スイング」のデータが、自社のサーバー上に蓄積されています。

今は「アプリ: 無料」、「センサ: 149.9ドル」という「機器売り」のビジネスモデルとなっていますが、Zeppが本当に目指したいのは、スポーツ界における「データ・コーチングプラットフォーム(PF)」なのです。

Zepp社はセンサ機能をフックに、データ・コーチングPFを目指す

Zepp社はセンサ(機器)をフックに、データ・コーチングPFを目指す

DI 板谷:「機器」をフックに、消費者と直接「つながり」、「サービスPF」を目指すというのは、医療・クルマ・まちづくり・・・等々、あらゆる領域で起こりつつある動きです。

あるいは、スマホ自身も、そのように捉えることが可能でしょう。

5年で売上1.4兆円に達したと言われている小米(シャオミ)ですが、端末の利益率の低さが取り沙汰されがちです。しかし、本質は、ソフトウェア・インターネット業界の論理をハードの世界に持ち込んで、ユーザートラフィックを、サービスを通じてお金に変えていこうという発想です。

もはや格安スマホメーカーでなく、Google/Apple同様に、プラットフォーマー(の巨大な原石)と見る方が良さそうです。数兆円と言われるバリュエーションもそれで正当化できます。

こうして考えると、Zepp社も、今はハードメーカーですが、ゆくゆくは大きなポテンシャル市場にDisruptを仕掛けようとしているよう聞こえます。

LC 朴:はい。スポーツ、特に今は球技に特化したセグメント狙いとは言え、グローバルでの関連市場規模は、いずれも兆円規模に達します。
・スポーツ用品: 4,660億ドル(約50兆円)
・ウェアラブル製品: 500億ドル(約6兆円)
・スポーツコーチング: 100億ドル(約1兆円)

そして現状では、Zepp社のユーザー数は、対競合でも優位なポジションにつけています。

3年弱で獲得した30万ユーザーを、1~2年のうちに500万ユーザーまで拡大させ、データ蓄積を進めることで、プラットフォーマーとしての地位を磐石にしていくことが出来れば面白いと思っています。

弊社が2013年1月のシリーズAで投資を行った際の期待も、この部分にあります。

 

 

「中国発ベンチャー」が、当初から北米市場にフォーカスできた秘訣

DI 板谷:さて、既に北米を中心に30万ユーザーを抱え、さらにグローバルでのスポーツ関連PFを目指そうというZepp社ですが、忘れてはならないのが、「中国人が、中国で創業した会社」ということでした。

今は本社こそカリフォルニアで登録してあるものの、R&D拠点は北京、生産拠点は深センとなっています。

一体、どういう経緯で、中国にR&D・生産拠点を持つ同社が、北米市場から攻略していくことを思い立ったのでしょうか?
また、なぜそれが可能となったのでしょう?

LC 朴:Zepp社の創業者(現CTO)である韓錚氏は、実は元Microsoft アジア研究院で、モーションセンサとユーザーインタラクションを専門に扱っていたスペシャリストでした。

そして、自身の専門性を活かしたビジネスを中国国内向けに行うべく、’09年に北京で起業したのがZepp社創業の経緯なのです。

DI 板谷:なるほど、当初は、やはり中国市場も意識の中にはあったのですね。

LC 朴:ですが、実際には、「スポーツ×ウェアラブル」にフォーカスを絞ってからは、基本は第1弾のゴルフ用センサから、一貫して北米市場を主戦場として意識していたようです。

というのも、当時の中国ゴルフ市場自体がまだ黎明期でした。
さらに、その中でかろうじて普及していたウェアラブルデバイスも、「安かろう悪かろう」のものばかりで全うな市場が形成されていなかった、という状況でした

DI 板谷:なるほど。ただ、いくら外資系のアジア部門でR&Dを学んだ創業メンバーとは言え、実際にマーケットとして北米市場を攻略しにかかるには大分、距離があるように思います。

一体、このギャップはどのように埋めたのでしょうか?

LC 朴:ここがZepp社の大胆なところなのですが、創業者(現CTO)は、北米市場を狙うにあたり、「経営陣に欧米人を迎え入れる」ことを決意します。しかもCEOとして、です(!)

DI 板谷:現CEOのJason Fass氏ですね。

調べてみると、元々MacBookのシニアPMで、Jawbone(リストバンド型ウェアラブル大手)のヘッドPMを歴任してきた業界人のようです。

LC 朴:はい。北米現地での「マーケティング」・「販売チャネルへのアクセス」が圧倒的に不足していたZepp社は、Jason Fass氏を迎え入れることで、一気に北米展開が前進します。

まず、CEOの古巣AppleからのMFi(Made For iPhone)認証獲得により、欧・米・日・中を含む複数国でのAppleStore(オンライン・オフライン)での販売が可能となりました。

DI 板谷:米国首位の通信キャリアであるVerizonとの提携(オフラインストアでの優先的取り扱い)や、Best Buyとのオンライン・オフライン双方でのタイアップも、積極的に行ってきたようですね。

LC 朴:はい。実はZepp社が初代ゴルフセンサをリリースした直後、Zepp社を模倣した競合が、目に付くだけで5~6社は出てきました。

もちろん、Zepp社は製品自体の優位性でも、競合の半年~1年以上先を走ってはいました。
初代のゴルフセンサは、業界唯一のゴルフクラブ装着型でしたし、大幅な性能向上を果たした2代目を、僅か半年後にリリースしました。

ただ、そうした技術自体の先進性に加え、このチャネルの部分、特にAppleとVerizonのオフライン部分によって、技術でつけた差を更に拡大したことが、Zeppの飛躍に大きく寄与したのです。

Zepp社のグローバル展開を支える組織体制: 外部登用により、北米を大胆に本社化

Zepp社のグローバル展開を支える組織体制: 外部登用により、北米を大胆に本社化

DI 板谷:非常に面白いですね。

このあたりの話は、サクセスストーリーとしては頭にすっと入ってくるのですが、実は改めて立ち止まって考えないといけない部分かと思います。

というのも、日系企業で言うと、良し悪しはさておき、進出先市場の現地子会社幹部にすら、現地人を抜擢しない例も多いと思います。

その点からすると、北米市場を最優先市場と捉え、グループ全体のCEOに現地人(=欧米人)を据えてしまうZepp社のやり方は、極めてドラスティックに思えます。

LC 朴:韓国企業も、多かれ少なかれ日本企業と同じ印象です。

中国の病院業界やレンタカー業界の例でも見たように、基本的には現地法人も、駐在員中心でマネジする傾向があります。

そのため、優位性のある技術や製品を持っていても、マーケティグ・販売の部分で、現地企業に対して劣後しがちです。

DI 板谷:なるほど、これも繰り返し登場しているテーマではありますが、考えさせられますね・・・。

一方で、さらに湧いてくる新たな疑問として、
・本社を移転し、現地人をCEOに迎えるまでに北米市場を意識しておきながら、
・なぜR&D拠点は北京に置き続けるのか?
ということがあります。

中国にR&D拠点を置き続けることが、「最先端テクノロジーを起点にしたグローバル企業」を目指す上で、どういった意味を持つと考えているのでしょうか?

この点は是非とも深掘りしてみたいと思っています。

LC 朴:面白い視点ですね。このあたりに興味があるのであれば、一度、北京R&D拠点の幹部とも意見交換してみてはいかがでしょうか?

ちょうど日本進出も考えているようですし、何かしら前向きな議論が出来るのではないでしょうか?

DI 板谷:ありがとうございます。

それでは、次回はZepp幹部との討議結果も踏まえて、「イノベーションの発信地としての中国」の可能性についても、議論を展開させて頂ければ幸いです。よろしくお願いします。

 


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板谷 俊輔

板谷 俊輔
DI マネジャー/DI上海 高級創業経理  

東京大学工学部卒業、同大学院新領域創成科学研究科修了後、DIに参画。大企業分野ではエンタメ・消費財企業に対する全社改革(営業・マーケティング改革、商品ポートフォリオ再構築、生産・購買コスト削減、海外事業戦略見直し等)、並びに多分野の大企業に対する新規事業立ち上げ・実行支援に従事。一方、ベンチャー分野では、サービス・広告系企業、ネット通販企業に対する常駐支援を含む全社戦略策定/経営インフラ整備/営業部門立ち上げ、等に従事。特に最近は大手日系企業の中国参入支援として、中国市場参入戦略策定/日中両政府との連携/全土展開ロードマップ策定/M&A・合弁設立を含むパートナリング/現地実行体制構築等に重点的に取り組む。現在はDI上海常駐。

朴 焌成

朴焌成 (Joon Sung Park)
Partner (Executive Director), Legend Capital

韓国延世大学校卒業、慶應義塾大学MBA及び中国长江商学院MBA修了。延世大学在学中には、University of Pennsylvania, Wharton Schoolへの留学経験も持つ。アクセンチュア東京オフィスを経て、Legend Capitalに参加。Legend CapitalではExecutive DirectorとしてEコマース、インターネットサービス、モバイルアプリケーション、コンシューマーサービス分野での投資を積極的に行う。韓国語、日本語、中国語、英語に堪能。

Legend Capitalについて
レノボを含むLegendグループ傘下の中国大手投資ファンド。特にインターネット・モバイル・コンテンツ分野および消費財分野に強みを持ち、200社以上への投資実績がある。日系大手企業のLPも多数。

(事例分析補助:胡 騰騏)